夜を走るの映画専門家レビュー一覧

夜を走る

「教誨師」の佐向大による人間ドラマ。郊外の鉄屑工場で働く二人の男、不器用で周囲から軽侮されている秋本と、要領よく世の中を渡ってきた谷口は、退屈だが平穏な毎日を過ごしてきた。しかし、ある夜の出来事をきっかけに、彼らの日常は大きく揺らぎ始める。出演は、「ふたつのシルエット」の足立智充、「教誨師」の玉置玲央、「夕方のおともだち」の菜葉菜。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    パッとしない町でパッとしない人生を送るパッとしない人物が主人公なのは「生きててよかった」にも通じる類型的な設定だが、本作はそれを極限(なにしろこの主人公は夢を抱くことさえ知らない)まで突き詰めることで、仄暗い世界の成り立ちそのものを暴いてみせる。洗車機、郊外のロードサイド、サービスエリアなど見えない壁の内側を徘徊するしかない車。他者の命の軽さ。比喩的にも直喩的にも、教祖も信者も等しく貧しいこの国を覆う寂寥感そのものをキャプチャーした稀有な作品。

  • 映画評論家

    北川れい子

    観客に不安と戸惑いを残さずにはおかない奇妙なクライムサスペンスで、ざわざわ感は半端ない。屑鉄工場で働く性格の異なる2人の主人公。そんな2人が若い女性の死に関わってしまったことから、日常のバランスが崩れていくというのだが、昆虫でも観察するようにして描かれる彼らの行動は、身につまされると同時に痛さも。ともあれ、通俗的エピソードを盛り込みながら、リアルな不条理劇へとステージを変えていく脚本・監督の佐向大、一筋縄ではいかない発信力がある。俳優陣もベスト。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    これは悪い。だがこの悪さがいい。全然かっこいいものでない、愚かで醜悪で貧しくひどいもの。その黒い札を集めて強い手をつくった。美学に収斂しないナマの、生活に根ざした荒んだ悪さがそこかしこに溢れていて唸った。ジム・トンプスンやチャールズ・ウィルフォードを読むようなノワールな怖さが、ちゃんとすべていまのこの日本で有り得るものとして描き起こされていた。オチ(?)もなかなか気持ち悪い。暴力、狂気を凌駕するのは平凡な欺瞞だと。佐向大監督の最高傑作。

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