遠くへ,もっと遠くへの映画専門家レビュー一覧

遠くへ,もっと遠くへ

結婚につまずき、互いに捨てられた男と女が真実の愛を探して北へと走り出すロードムービー。「れいこいるか」が高い評価を得たいまおかしんじ監督が、井土紀州の脚本を得て、秋から冬に向かう雄大な北海道の景色の中で、すこしずつ惹かれあう男女の切ない恋模様を届ける。『獣電戦隊キョウリュウジャー』の新藤まなみが、人妻の小夜子役で初主演&初濡れ場に挑み、不動産屋の洋平を「モリのいる場所」(18年)「ミッドナイトスワン」(20年)で異彩を放った吉岡界人が演じた。第17回大阪アジアン映画祭にてプレミア上映。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    「花恋」へのカウンターだった脚本作に続き、監督作は「ドライブ・マイ・カー」へのカウンター。小さな話を大きく映画的に見せる秘密を教えて欲しい。役者に不自然な動きをさせているのに自然という離れ業。女の話から男の話への流れるような展開。元妻探しの赤い車での旅はやがて北海道へ。そしてまさかの樺太。一見無駄に見えるものが無駄ではないという台詞と構成。脚本、誰かと思ったら、井土紀州。オリジナルなのだから冒頭に脚本家名をクレジットしてほしかった。それだけが残念。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    喪失感を抱えた女と男の不器用な出会い。同時公開の「あいたくて あいたくて あいたくて」と同じ主題であり、この作品の新藤まなみと吉村界人もまた、どうにももどかしく、どうにも切ない。いまおかしんじ的世界の女と男である。健気に振る舞う新藤と、過去をひきずる吉村。北海道への旅やシャワーカーテン越しの妻との再会は「パリ、テキサス」そのものだけど、豆粒のようにとらえた人物の絶え間ない身振りと、その背後に大きくとらえた海や川の光景が、じわじわと胸に浸みてくる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    配偶者と不本意なかたちで破局した男女が急接近する前半は、振り切った陰と陽のコントラストを織り成すキャラクター同士の掛け合いも、スクリューボール・コメディ調で軽妙。ロードムービーに移行する後半では一転、「パリ、テキサス」を思い起こしたりもする失踪中の妻との邂逅シーンを境に不穏な気配が舞い込み、満を持してのラブシーンにも、どことなく乾いた空気が漂う。その答え合わせらしきものも台詞でされるが、ふたりの感情の糸がもつれたままにも見え、曖昧な余韻が残った。

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