野球部に花束をの映画専門家レビュー一覧

野球部に花束を

クロマツテツロウの同名漫画を「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」の飯塚健監督が映画化した青春コメディ。高校デビューを目論んでいた鉄平だったが、野球部に入部する羽目になり、堅気に見えない鬼監督と後輩を奴隷のように扱う先輩たちにしごかれる。主人公の黒田鉄平をアニメ映画「天気の子」で声優を務めた醍醐虎汰朗が、チームメイトの桧垣主圭を「広告会社、男子寮のおかずくん」の黒羽麻璃央が、野球部の監督・原田を実写版『荒川アンダー ザ ブリッジ』でも飯塚健監督と組んだ高嶋政宏が演じ、監督や先輩部員には絶対服従という高校球児たちの理不尽な日常を描く。元プロ野球選手の里崎智也が野球部あるある解説役として出演。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    パワハラNOの時代にバリバリ体育会系の高校野球部の話をやるなんて、なんと時代に逆行した(笑)。いや、パワハラの中にも豊かな人間関係があるという価値観だってあるとは思う。でもそれをやるなら、サバイブ出来なかった「脱落組」の痛みや怒りも描かなきゃ。一年生も二年生になったら同じパワハラ先輩になるというオチじゃ、結局全肯定にしか見えない。時代に合わせる必要はないけど、体育会体質を笑うなら、そこに本質的な批評がなければ。このバラエティ乗り、配信で十分では。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    ベタベタの昭和的感覚の高校野球部を目いっぱい誇張して描いている。こういう世界が珍妙なギャグでしかなくなったということなのか、あるいは甘酸っぱいロマンになってしまったということなのか。そんな余計なことばかり考えてしまった。現実の大谷翔平のプレイがフィクションをはるかに凌駕している今日、血沸き肉躍る野球映画はもう成立しないのかもしれない。還暦の小沢仁志が高校球児を演じるのも、ギャグというより、現実に対するフィクションの敗北と思えてきた。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    “高校球児”と一括りにするには無理ありすぎの面々を含む俳優陣と、個性派群像劇も得意な飯塚健監督が一丸となって紡ぐ、笑いさえ込み上げる野球部残酷物語だが、甲子園やレギュラーを懸けて争うスポ根ものの劇的さとは無縁。そこへ到るまでの練習の積み重ねこそが野球の神髄で、いつの時代も丸坊主を強いられる高校野球や、そんな暗黒期の反動もあってか、派手に個々をアピールしがちなプロのプレーの醍醐味も、そこに遡ると改めて気づかせてくれる、地に足ついた青春コメディ。

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