破戒(2022)の映画専門家レビュー一覧

破戒(2022)

1948年に木下恵介、1962年に市川崑が映画化した島崎藤村の『破戒』を60年ぶりに映画化。池部良、市川雷蔵が演じた自らの出自に悩みながらも最後に人生の決断をする青年教師・瀬川丑松を、「殺さない彼と死なない彼女」「Red」の間宮祥太朗が演じている。丑松への恋慕を秘めた女性・志保役に「砕け散るところをみせてあげる」の石井杏奈、悩める丑松を支える親友・銀之助役に矢本悠馬のほか、眞島秀和、高橋和也、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、大東駿介、小林綾子など錚々たる実力派俳優が顔を揃えた。監督は2005年度キネマ旬報ベスト・テン文化映画第7位の「みみをすます」(教育映画祭最優秀賞・文部科学大臣賞)を監督した前田和男。脚本は加藤正人と木田紀生が担当し、明治後期の部落問題を、差別根絶と多様性のある社会を願う現在の物語へと昇華させた。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    プロの仕事だと思う。人物の置き方や出し入れ、説明するしないの判断、どれも上手い。プロの手練は、部落出身だと口外してはならぬという父の戒めを破る青年の軌跡を見事に描く。しかし百年前ですら通俗的で甘過ぎると批判された原作を今やるには何かが決定的に足りない。今、『破戒』をやる意味は何か。今、部落をどう伝えるべきか。部落を抜きにしても面白い映画かどうか。その答えが見えない。教育映画や手垢のついた娯楽映画が見たいのではない。見たいのは、21世紀のシン・破戒だ。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    丑松の内面の葛藤を描く一方で、日露戦争後の国家主義の台頭、同調圧力の高まりといった時代背景を念入りに描いている。そこに現代との共通性を見出したのだろう。わかりやすい図式だが、丑松の悩みそのものはややぼんやりとしてしまった。教室で子供たちに出自を明かし、町を出る丑松に士族の娘が寄り添い、子供たちが泣きながら見送るという終幕も、わかりやすく、メロドラマを盛り上げる。ただ丑松の目的地に具体性がない分、ふわりとした情緒しか残らない憾みがある。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    同原作の過去の映画化を思い返しても、色々な意味で華や品が必要な丑松役に、間宮祥太朗は適任。見えない差別意識や同調圧力にさらされつつ、自身のアイデンティティに苦悶し葛藤を続ける姿を繊細に好演し、普遍的な共感を呼ぶ。子役も芸達者を揃え、家庭環境など不遇な状況下であれ、可能性に満ちた生徒たちとのふれ合いも丹念に描き、教育の大切さを今改めて問い直す意図は伝わるが、“最後の授業”の場面が胸を打つだけに、それに続くくだりが少々長く、蛇足に見えるのは痛い。

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