世の中にたえて桜のなかりせばの映画専門家レビュー一覧

世の中にたえて桜のなかりせば

乃木坂46で活躍する17歳の岩本蓮加と、2022年で芸能生活68年を迎える宝田明がW主演。70歳の年の差コンビが“終活アドバイザー”として、さまざまな境遇の人たちの終活を手伝うヒューマンドラマ。宝田明は自らエグゼクティブプロデューサーも務めた。不登校の女子高生が「終活」という仕事を通して、多様な人生に触れながら自身の成長につなげていくという難しい役どころを、今年3月に高校卒業を控える岩本蓮加が等身大の姿で演じきった。余命幾ばくもない宝田の妻役は、「燦燦 ~さんさん~」(13年)などで宝田と共演歴のある吉行和子。監督は長編作品「Lost & Found」が2008オースティン映画祭にてグランプリ受賞、2017年の短編作品「サイレン」も国内外の映画祭で高い評価を得た三宅伸行。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    世の中うまく言ってるようでよく考えると「なにそれ?」みたいな迷言には事欠かないが(Jポップの歌詞とか、オンラインサロンの主宰者の言葉とか)、本作の「さくらは下を向いて咲くんです。私たちが上を向くためにね」という台詞はその最たるもの。そういうご都合主義が作品全体に及んでいて、人物造形よりもまずは設定ありきなキャラクターたちの背景が、帳尻合わせのように後から説明されていく展開に冷めてしまった。晩年まで不変だった、宝田明の上品さを追想するための作品か。

  • 映画評論家

    北川れい子

    宝田明の穏やかでユーモアのある終活アドバイザー役は申し分ない。役のエピソードに自身の子供時代の体験をさりげなく使っているらしいのも説得力がある。が気になるのはかなり取って付けたようなタイトルと、終活アドバイザーをバイトにしている不登校の女子高生。えっ、バイト? 常識的に随分、乱暴な設定にもかかわらず、相談者が訪ねて来ると宝田と並んで話を聞く。そして彼女が思いつく、CG加工による満開の桜の写真。岩本蓮加を売り出す為のヤラセ的美談?が目立ちすぎ。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    都内の映画館でナマで遭遇する宝田明氏は美しい巨人であった。1930年代生まれの身長180センチは現代の体格とは違って奇跡的な貴種の気配があり、芸歴とご本人の気質の明るさ軽さに戦中戦後体験の重さが混交されてマーベラスな存在となっていた。本作が宝田氏の完全に本気の、日本の戦後倫理観がこれからもあらゆる局面で人を救いうるのだ、という遺言的映画になっていることに感動した。それに感謝もする。徳井優も美しかった。岩本蓮加を捉える仰角に確信があるのも良い。

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