猿ノ王国の映画専門家レビュー一覧

猿ノ王国

テレビ局で起きた隠蔽事件を社会の縮図になぞらえたスリラー。地下の編集室でコロナ・ワクチン特集の再編集が秘密裏に行われていた。担当ディレクターは怒りを露わにするが、編集室に監禁されてしまう。そのころ、最上階の役員室に責任者が呼び出されていた。監督・脚本は、「超擬態人間」の藤井秀剛。出演は、「狂覗」の坂井貴子、「半狂乱」の越智貴広。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    あまりの酷さに言葉がない。お話も人物の考えも行動も幼稚過ぎて、何度も途中で止めようと思う。最後まで観ても、意味が分からない。「本作はあくまでフィクションであり、ワクチンの効果や安全性を否定する意図はありません」と字幕が出るが、大丈夫。誰もまともに取り合ってくれないって。プレスには「日本社会の寓話」と。いやいや、寓話って書きゃ、何をやっても許されるワケじゃないから。仕事とはいえ、この手の映画を観るのは本当につらい。猿だってもう少しマシなものを作る。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    マスメディアの腐敗を暴く社会派ドラマなんだろうな、それにしてはリアリティーがないなあ、と思いながら見ていたら、実は高層階の役員室と地下の編集室という2つの密室で進行するトリック満載のスリラーであった。それもホラー映画さながらに血みどろの。役員から末端までほとんどの人物にジャーナリストの倫理がかけらもないことより、自己保身と責任転嫁、上司への媚びと部下への威圧の方がずっとリアルで怖い。そこから染み出す怨念。確かにこの組織はホラーになりうる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    テレビ局のビルの地下と最上階で繰り広げられる、阿鼻叫喚の図。ひたすら責任から逃れ、自らの保身のみに走る日本人の性根への、作り手の異様なまでの怒りが全篇にみなぎる。ほぼ全員が過剰気味の熱演で担うヒール役に対する、負の感情だけで暴走するドラマは、勧善懲悪とも違う後味の悪さが残る。マスクの着脱でさえマウンティングし合う、さもしい現実と地続きの世界が題材ゆえ、“猿”と一括りにせず、各々の差異ももう少し掘り下げれば、より真実味が増したと思うのだが。

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