N号棟の映画専門家レビュー一覧

N号棟

実際に岐阜県富加町で起きた幽霊団地事件を基に企画された考察型恐怖体験ホラー。死恐怖症(タナトフォビア)を患いながらも、死に惹かれていってしまう主人公の女子大生・史織役を「成れの果て」などの話題作が続く萩原みのりが務め、凄まじい恐怖と戦う圧巻の演技を披露している。団地に一緒に乗り込む大学生役を、池田エライザ監督作品「夏、至るころ」に主演した倉悠貴、子役時代から活躍する実力派・山谷花純がそれぞれ務める。そんな3人を囲む幽霊団地住人を、筒井真理子をはじめ、諏訪太朗、赤間麻里子、岡部たかしなどが怪演。監督・脚本は「リトル・サブカル・ウォーズ ヴィレヴァン!の逆襲」の後藤庸介。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    隔絶されたコミュニティでの非日常の段階的な描き方からもアリ・アスター「ミッドサマー」をレファレンスとしているのは明らかだが、着目すべきは地理移動の前段階における、主人公まわりの日常描写のリアルさ。そこにこそ、この新しい作家がJホラーのトーン&マナーの呪縛にとらわれず、アートハウス系作品とホラー作品との融合に成功した同時代の海外の作家たちと共振している痕跡がうかがえる。課題は脚本の精度か。登場人物たちの行動原理が一部うまく飲み込めない。

  • 映画評論家

    北川れい子

    さしずめ「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の団地版? なるほどカメラを手に3人が潜り込む廃墟同然の薄暗い団地は、人工的な森と言えなくもないし、住人たちを操る魔女もどきも登場する。彼らが輪になって奇妙な踊りをするくだりは、怪作「死霊の盆踊り」をチラッ。けれどもその住人たちを、生きているのか霊なのか、曖昧にしたまま進行する演出は結構スリリングで、彼らがみな、さりげなく白い衣裳を身に付けているのも暗示的。肉体は死んでも魂は死なず。そしてラストの赤い服。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    筋が良い。画が良い。役者が良い。それらが有機的に結び合う。筋の良さとはしっかりストーリーと設定が組まれていること、意外にジャンルとして“村もの”であること。画面は、瀬田なつき、濱口竜介、菊地健雄作品などの撮影監督佐々木靖之氏が手を尽くして、キマった構図をつくりそのヴァリエーションが豊か。萩原みのり氏もいいし、筒井真理子氏に至ってはもうクリストファー・リーにしか見えない。この積み重ねで怖さ不吉さを目指す。それはもはや格好良さですらある。

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