オートクチュールの映画専門家レビュー一覧

オートクチュール

世界最高峰の一流メゾン、ディオールのアトリエを舞台に、引退を目前に控えたお針子の女性と、夢を見ることさえ知らなかった移民二世の少女の人生が鮮やかに交差するヒューマンドラマ。監督はフランスで小説家としても活躍するシルヴィー・オハヨン。トリュフォーやゴダールらの作品でおなじみの大女優ナタリー・バイと、「パピチャ 未来へのランウェイ」「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」などのリナ・クードリが共演。境遇も年齢も正反対のふたりが、厳しいオートクチュールの世界で本当に大切なものを手に入れるまでを描く。映画の衣装デザイナーのキャリアを持ち、現在はオートクチュールのアトリエで働くジュスティーヌ・ヴィヴィアンの監修のもと、歴史に残る幻のドレスやムッシュー・ディオール直筆のスケッチ画など貴重なアーカイブ作品が登場するのも見どころ。
  • 映画評論家

    上島春彦

    作劇上の都合でも、犯罪を悪事だと認識しない人を主役にする企画は評価できない。悪い事したおかげで得しました、みたいになっちゃった。これは主演のヤングケアラー、ジャドの方。そりゃ事情はいろいろあるにせよ。被害者の引退間近女性職人エステルの度量の大きさには素直に感服する。私じゃよく分からないのだが、都市と郊外という二分法が物語に存在するようで、その機微を実地で知っている人なら、もっと細かい点も楽しめるのかな。一着のドレスが完成するまでの苦労は分かった。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    繊細な絹のヴェールのようなやわらかな照明や、針に糸を通すような細やかな手つきで彩られた画面設計が美しく、終始見惚れる。持っている上の世代の女性が、持たざる下の世代の女性へ道を切り拓いてやるシスターフッド映画で好印象を持った。トランスジェンダー女性と思われる人物もその輪に身を置いている。そうしたテーマを描いていながらも、男女のベッドの上で交わされる会話ではフェミニズムが無効化されてしまっているように捉えられてしまうのを批判するのは野暮だろうか。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    斬新な演出と卓抜なカメラに導かれ、フランスの「上流」「下層」社会を体現する俳優たちはことごとく魅力的で、本作を通じてわれわれはまた新たなフランスと出会うことになるだろう。惜しむらくは、あまりにも幼く無思考な物語展開がそうした本作の豊かさと野心を大きく削いでしまっていることだろう。説話上のキーポイントがほとんど「撮られていない」ことを考慮すると、監督は本作を「語りたくなかった」のかもしれない。そして、その方が作品のためには良かったのかもしれない。

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