鈴木さんの映画専門家レビュー一覧

鈴木さん

第31回PFFアワード入選作「ぴゅーりたん」の佐々木想監督が、お笑いタレントのいとうあさこを主演に迎えて描くディストピアSF。少子化対策で45歳以上の未婚者は市民権を失うという条例が制定され、介護士よしこは施設に迷い込んできた男と結婚しようとする。いとうあさこは市民権を失いかけている44歳独身のよしこを、正体不明の男・鈴木さんを劇団B級遊撃隊の主宰でドラマ『DCU』などに出演する佃典彦が演じる。第33回東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門出品作品。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    「行き遅れ」キャラの芸人をテレビのバラエティが笑いものにできなくなったことは、日本社会も少しは進歩したということなのだろう。しかし、キャラを奪われた当事者にとってはある種の営業妨害なのかもしれない。本作では、そんな芸人のキャラがポリコレ無法地帯の日本映画にそのまま移植されている。それにしても、商業映画である以上どこかに「売り」があってしかるべきだが、その「売り」が最後までわからなかった。プロット、撮影、編集など映画の骨格はしっかりしている。

  • 映画評論家

    北川れい子

    暗喩や風刺といった小細工はせずに、しかも声高でもなく、日常に入り込んだ全体主義を淡々と拾っていく脚本と演出に感心する。廃れたラブホで老女たちの世話をするよしこにしても、ごく普通の中年に過ぎず、奇妙な法律やルールがあっても、自分にふりかかって来なければ、黙ってやり過ごすに違いない。そんなよしこのささやかな意地と抵抗が描かれていくが、何かが変わるわけでもない。それでもよしこは何かに気がつく。この作品が作られたことにエールを送りたい。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    足腰の強い政治的寓話の面白さを堪能した。これがやれてどうして「ハレンチ君主 いんびな休日」がだめなのか。製作側と現場の連帯、性根の座った製作が大事だと思わされる。宗教的象徴君主を崇めて個々人の人権が蹂躙されている世界にポイとその君主が現れたとき彼が不審者としてリンチされる、という必然、仕掛けにはゾクゾクするものがある。彼に対比されるいとうあさこ氏演じるうらぶれて社会からこぼれる女が、令和って何と言わんばかりの昭和的重み荒みで素晴らしい。

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