ベルファストの映画専門家レビュー一覧

ベルファスト

「オリエント急行殺人事件」のケネス・ブラナーが自身の幼少期を投影した自伝的作品。1969年の北アイルランド、ベルファスト。9歳の少年バディは、愛に溢れた日々を送っていた。しかし突如、プロテスタントの暴徒が街のカトリック住民への攻撃を始める。出演は、「フォードvsフェラーリ」のカトリーナ・バルフ、「ヴィクトリア女王 最期の秘密」のジュディ・デンチ、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のジェイミー・ドーナン、「沈黙 サイレンス」のキアラン・ハインズ。第46回トロント国際映画祭観客賞、第79回ゴールデングローブ賞脚本賞ほか、世界中の映画祭で受賞・ノミネート多数。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    たとえ貧乏でも、生まれ育った郷土で家族や隣人たちと楽しく賑やかに暮らしたい。こんな些細な願いを残酷にも打ち砕く紛争の恐ろしさと愚かしさを正面から描きつつも、この映画は厳しすぎる現実に怯まず、ユーモアを忘れず生き抜こうとする人々の逞しさにこそ目を向ける。地元出身の俳優を数多く起用して活写される、イェイツの詩、ヴァン・モリソンの歌や映画に励まされ、なんとか地元にとどまり続けようとする人々のギリギリの生活は、現在のウクライナ情勢を連想させもする。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    1969年当時の北アイルランド紛争を描くのにお誂え向きという以上に、ジュディ・デンチの深く刻まれた皺を美しく捉えるモノクロ画面。この皺に対して無邪気な表情のジュード・ヒルと、その間で揺れるカトリーナ・バルフの3人が特に素晴らしい。しかし、少年目線とはいえ肝心のベルファストが少々手狭に感じられる。本作のハイライトでは、少年に覆いかぶさり、紛争の現実から彼を守る家族ドラマよりも、残酷で広い世界との出会いを描くことこそがふさわしかったのではないか。

  • 文筆業

    八幡橙

    製作・監督・脚本のケネス・ブラナー曰く「私が愛した場所、愛した人たちの物語」即ち「とてもパーソナルな作品」とのこと。それは至極もっともで、美しいモノクロ主体の映像で綴る郷愁溢るる物語に違いないが、9歳の少年が見つめる先が、祖父母含む家族(母がまた生活感皆無の美しさ!)と、幾筋かの近隣路地から脱し切れぬ点が残念。北アイルランド紛争を絡める限り、子供視点とはいえもう少し「個人の」「昔の」話から「あなたの」「今の」物語にまで開展させる何かが欲しかった。

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