桃源郷的娘の映画専門家レビュー一覧

桃源郷的娘

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019で北海道知事賞を受賞したコメディ。老浮浪者が、公園のベンチで居眠りしている娘に恋をする。すでに男性機能を失っていて娘を抱くことができない彼は、生涯の恋を叶えるために突拍子もないアイデアを思いつく。監督は、「狂える世界のためのレクイエム」の太田慶。出演は、「星屑の町」の小宮孝泰、「メス猫 キャットピープルの誘惑」の川越ゆい。カナザワ映画祭2018『期待の新人監督』正式出品。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    こんなものを作って、誰が得をするだろう? せめて役者の経歴の足しになればいいが、これじゃ汚点にしかならない。コメディなら何をやっても許される訳ではない。白昼の公園で拳銃撃ってはダメだし、覗きをやるならバレない位置関係じゃなきゃダメ。そんなことに平気な監督がまともな脚本を書けるはずもなく、演出が出来るはずもない。作品どころか商品にもなっていない。これを配給・宣伝する会社もこれを上映する映画館も映画に対して不誠実。こんなもの、映画として論じたくない。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    神代辰巳の“おんぶ”のパロディかと醒めつつ、不覚にも感動してしまった。哀れで滑稽なインポテンツの老人が、すっぽんぽんの女を背負って、夜明けの海まで走る。そんな身振りに十分映画的な何かがあるのだ。コメディ版『眠れる美女』としてのウイットが面白いというより、胸を揉むとか、ベンチの匂いをかぐとか、ソフトクリームを舐めるとか、そんな下卑た身振りが、素人っぽい作りもあいまって、えらく艶めかしい。一度も性行為に及べないエロ映画なのに退屈しない。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    ろくな若者が登場しない高齢化社会を背景に、かの『眠れる美女』を、コミカルかつ現代的な切り口で捉え直そうとする発想自体には興味津々。しかし結局のところ、無理やり他者を眠らせなければ何もできない、妄想と現実との見境がつかなくなった老人の、独りよがりな悪あがきに終始してしまう。川越ゆいが飄々と好演する、あっけらかんと楽天的な“美女”と、快楽のキャパシティが小さすぎるペシミストの青年も交えた、奇天烈な三つ巴が生む化学反応の行方をこそ観てみたかった。

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