さがすの映画専門家レビュー一覧

さがす

「岬の兄妹」で注目された片山慎三監督の長編2作目にして商業デビュー作。第26回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門に正式出品された。懸賞金300万円がかかった指名手配中の連続殺人犯を追って姿を消した父と、その父を不安と孤独を抱えながら探し求める娘の姿を描く。苦悩と矛盾に満ちた人生を歩んできた父・原田智役を佐藤二朗が演じる。娘の楓役をオーディションで勝ち取ったのは「湯を沸かすほどの熱い愛」「島々清しゃ(しまじまかいしゃ)」の伊東蒼。指名手配中の連続殺人犯・山内照巳を演じるのは「ホットギミック ガールミーツボーイ」「東京リベンジャーズ」の清水尋也。自殺志願者・ムクドリ役には『全裸監督』の森田望智が起用された。大阪出身の片山監督の父が指名手配犯を見かけたという実体験から生まれたオリジナル作品。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    これはダメだ。結局、娘が父親の本当を探す話なのだろうが、ならばALSの妻を自殺に見せかけて殺すまでに娘をちゃんと描かないと。娘の存在があって尚、母は死を望むのか、父は妻を殺すのか。事の?末を知らずとも葛藤を感じるから、娘は父を探すのではないか。そこに座間事件の犯人モデルが絡むから始末が悪い。内面を描けないなら、犯人目線パートなどやるべきでない。これを褒める人は絶対いると思うし、そう勘違いさせる力はあるけど、こういう話をやる最低限の礼儀がない。酷い。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    ミステリーである。失踪した父を探していた娘が日雇いの現場にたどり着く。父の名前が呼ばれると、父とは違う若い男が振り返る。そこまでの前半部分に漂う不穏な空気がすごい。このねっとりした湿度というか、ざらざらとした感触は、大阪という土地の力だけでなく、片山慎三監督の独特の感覚と図抜けた描写力のたまものだと思う。「さがす」という身振りが五感で感じ取れるのだ。インターネットと現代社会の闇の部分へと踏み込む後半の謎解き部分はやや図式的で、緊迫感が薄れる。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    偽善を憎み自分の眼で見たものしか信じない女子中生が、ダメ親父とつましく暮らす大阪の下町と、いくつもの偽名を使い分け、むき出しの本音や狡猾な嘘が殺伐と飛び交う電脳空間。ママチャリで連続殺人犯を猛追する命知らずの親孝行や、死にたいのに死ねない薄幸女性の超人的生命力などに誘発され、相容れない双方の領域が次第に侵犯し合い、想像だにしない事態へとなだれ込む。さがしものを見つけずにいられなかった娘と、隠し事の下手っぴな父親ゆえの、あまのじゃくな愛に涙。

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