北風アウトサイダーの映画専門家レビュー一覧

北風アウトサイダー

大阪市生野区出身で、「劇団いろは野良犬弾」の主催者であり俳優の崔哲浩が、自らの実話を元に脚本を書き、監督・プロデューサー・主演を務めた人情喜劇。偏見に悩みながらも貧しくとも笑いと励ましを忘れない家族が、次々と襲い来る人生の不条理と戦う姿を描く。「朝鮮人も日本人もみんな人間だから、仲良くできる時代が必ず来る」というオモニ(母)の言葉を胸に、四人兄弟がオモニ食堂で一緒に働く仲間や日本のヤクザの組に入った旧友らと協力し、店の借金返済や在日朝鮮統一連合会などの難題に挑んでいく。実力ある演劇人が多数出演し、新宿梁山泊の代表・金守珍が「バラバラになった家族がいかに絆を取り戻すかという、普遍的テーマを見事に描いた作品」と評価した。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    在日が撮った在日映画。応援したいのは山々だが、登場人物の誰一人として行動原理も気持ちも分からない。出来事の整合性もない。男の話だから男の脚本監督で、女の話だから女の脚本監督で、という思い込みがいかに間違いか、本作が見事に証明してくれている。「朝鮮人が日本人を祖国に連れてってるってホンマなん?」って、拉致知らないの? ヘイトもなく、社会の出来事が遮断されたパラレルワールドの話か。脚本監督主演、ちゃんと他者の視点を入れて作ったのだろうか。無駄に長い。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    冒頭の葬式から終幕の結婚式まで、大阪・生野の在日コリアンの大家族の真情が猛烈な熱量で語られる。登場人物一人ひとりに言いたいことがたくさんあって、声もでかい。さらに一人ひとりが丁寧に性格づけられ、面構えがよい。過剰に芝居がかった部分もあるが、物語にぐいぐい引き込まれる。家族と移民社会と抗争の物語という意味では、焼肉屋を舞台にした貧者の「ゴッドファーザー」なのかもしれないが、進学問題など個々の悩みや迷いは具体的で、リアルな人情劇に仕上がっている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    序盤では、なかなかに複雑な人物間の相関関係や、ある在日朝鮮人一家の波乱の歴史が、時間を行き来し丹念に紐解かれ、家族劇として引き込まれる。しかし、不在ながら物語の中心にいた長男が帰還してからの、ジャンルが一変するがごとく血の気の増す急展開には、正直とまどった。様々な疑問が回収しきれぬエンタメ的見せ場を連投するよりも、15年の空白を、個々に魅力的な“アウトサイダー”と彼らを取り巻く人びとがいかに乗り越えるかをこそ、じっくり描くべきではなかったか。

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