シチリアを征服したクマ王国の物語の映画専門家レビュー一覧

シチリアを征服したクマ王国の物語

イタリアで長く読み継がれてきた児童文学をアニメ映画化。ある日、クマの王国の王レオンスの息子トニオがいなくなる。レオンスはクマの群れを引き連れて、人間の暮らすシチリアにトニオを探しに行くが、シチリアの大公は軍隊を率いてクマたちに奇襲をかける。監督は、在仏イタリア人アーティスト、ロレンツォ・マトッティ。日本語吹替キャストは、「先生、私の隣に座っていただけませんか?」の柄本佑、「ボクたちはみんな大人になれなかった」の伊藤沙莉、「その日、カレーライスができるまで」のリリー・フランキー。2019年カンヌ国際映画祭ある視点部門、2019年アヌシー国際アニメーション映画祭公式上映作品。
  • 映画監督/脚本家

    いまおかしんじ

    昔どこかで読んだことがあるような童話の世界。洞窟の中での語りっていう設定がいい。冬山に閉じ込められ、話をするしかない時間。子どもの頃、寝る前に絵本を読んでもらって、だんだん眠くなっていく感じ。懐かしかった。前半はクマたちが様々な困難を解決する冒険譚。これで終わったら残念だなと思っていたら、後半は一気に苦い話になっていく。あんなに英雄だったクマもちょっとしたことでダメになる。人もクマも一緒。教訓めいたところが童話っぽかった。かわいい映画。

  • 文筆家/女優

    唾蓮みどり

    ただ“カワイイ”とか“エモい”ではないこのアニメーションの世界観に心底ほっとする。人間が語るクマの世界とクマ側から見たその後の世界。魔法で風船のようになるイノシシや、幽霊と楽しそうにダンスするクマたちの姿もすごくいい。クマたちは境界を超えていく。物語としての面白さもさることながら、シンプルな線で描かれる生き物たちや街の姿が美しく、魅了された。見習いの少女がいつか大人になって素敵な語り部になるであろうことまでも連想させる。

  • 映画批評家、東京都立大助教

    須藤健太郎

    キャラクターに対して空間を大きくとった画面の使い方がいい。暖色を基調にした色の案配がいい。クマもいいけど幽霊もいい。森もいいけど河もいい。だから、この寓話がもとは1945年に書かれていても、私はここに歴史的な教訓を求めない。クマも魔法も比喩である必要はない。どんな結末を迎えようと、この物語を肯定しなくてはいけない。見ながらずっとそんなことを考えていた。老クマの声をジャン?クロード・カリエールが担当しているのもいい。秘密を残して語り部は去るのだ。

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