チェチェンへようこそ ゲイの粛清の映画専門家レビュー一覧

  • 映画評論家

    上島春彦

    公権力による市民へのあからさまな暴行の様子が捉えられており、見続けるのが辛くなる。が、色々な意味で傑作。21世紀的な技術の進歩により、巧妙な映像操作が(プライヴァシー保護のために)用いられている、とのこと。作品を鑑賞したくらいでは手法が分からないほどだ。LGBTを嫌悪する独裁者の肉声も酷い。「チェチェンに同性愛者迫害は存在しない。何故ならチェチェンには同性愛者が存在しないから」というこの映画を象徴する一言が怖い。独裁者の後ろ盾はプーチンだそうだ。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    匿名を担保するためにディープフェイク的な手法を使用した前情報だけを入れて観終わった後にプレス資料を確認し、それがここに映し出される性的マイノリティたちの人間性を損なわないようにするためということを知って胸打たれた。不当に姿を消され、声を奪われてきた性的マイノリティを巡る歴史に対する思慮深さが感じられる。ただ拷問や自傷行為など直接的な描写が差し込まれるため暴力性も高く、(とくに近い属性や経験を持つ観客にとって)鑑賞には注意が必要なように思われる。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    こうした筆舌し難いほど痛ましい出来事が今も世界のどこかで起きているのだという問題提起映像としてはじまり、章ごとに挿入される凄惨な暴力動画がもはや映画の範疇をも超えた、匿名のグロ動画にしか見えなくなってしまった瞬間に、暴力の矢印はスクリーンのこちら側にいるわたしたちに返ってくる。そう、本作の真の恐ろしさは、2時間も待たずにかくも恐ろしい事象に麻痺し、あっさりと馴致されていくわたしたち自身にある。人の顔ですら01の羅列でしかない世界へようこそ。

1 - 3件表示/全3件