ちょっと思い出しただけの映画専門家レビュー一覧

ちょっと思い出しただけ

「くれなずめ」の松居大悟が監督・脚本を手掛けたラブストーリー。怪我でダンサーの道を諦めた照生と、その彼女でタクシードライバーの葉。二人を中心に関わる登場人物たちとの会話を通じて、都会の夜に無数に輝く人生たちの機微を繊細かつユーモラスに描く。出演は、「アジアの天使」の池松壮亮、「ボクたちはみんな大人になれなかった」の伊藤沙莉。第34回東京国際映画祭コンペティション部門選出。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    同世代の同志と自分たちの世代の「リアル」を描くという松井大悟の本作における目論見は成功しているのかもしれないが、結果としてそれが同世代のごく一部の観客にしか届かないものになっているのでは? 作品が丸ごと自分(たち)が好きな特定の映画のオマージュというコンセプトそのものが、2020年代のポップカルチャーにおけるレファレンスの扱い方として貧しすぎる。その貧しさに、自分は耐えられない。坂元裕二は自身の趣味性を脚本に反映させることはないと言っていた。

  • 映画評論家

    北川れい子

    最近は「花束みたいな恋をした」路線?の、結局は別れてしまう恋人たちの話が流行りなのか。本作は、すでに別れている彼と彼女の、コロナ禍の日常をべースに、2人の恋の?末を彼の側から1年刻みで遡っていく。がこの形式、昨年作「ボクたちはみんな大人になれなかった」が時代ぐるみでほろ苦く使っていて、しかも恋人役は本作と同じ伊藤沙莉。ではあるけれども、彼の周辺のいかにものエピソードはともかく、伊藤沙莉の夢見るリアリストぶりはかなり痛快で、キャラ的にも後を引く。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    「ナイト・オン・ザ・プラネット」をそのまま出すのは観ていて照れてしまうが、たしかに伊藤沙莉氏の魅力はウィノナ・ライダー級。運転手の制服という擬フォーマル的装いでありながらカラフル五本指ソックス。ハッチドアを閉めるためにちょいとジャンプ。あの声だけでも反則級の個性なのに。マスクやディスタンス、とコロナ感染下の世界をきっちり描写。この点で本作は残るべき映画と思う。かつ、同月同日を遡る構成にはニューノーマルを安易に受け入れない意志を感じる。

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