なれのはての映画専門家レビュー一覧

なれのはて

何らかの理由で帰国せずフィリピンのスラムで日銭を稼ぎ細々と暮らす高齢の日本人男性たちを7年追い、第3回東京ドキュメンタリー映画祭長編部門グランプリ・観客賞をW受賞したドキュメンタリー。”困窮邦人”と呼ばれる彼らの日常と周辺の人々の姿を捉える。監督は、フリーの助監督として数々の劇映画に参加する一方、『ザ・ノンフィクション シフォンケーキを売るふたり』などテレビ番組のディレクターを務めてきた粂田剛。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    フィリピンに流れ着いた男たち。最底辺の生活を送りながら、なぜか不幸そうには見えない。20ペソ(45円)で排泄物処理や体洗ってくれる近所の人。最底辺が最底辺を支える。「なれのはて」とは被写体に対して随分失礼なタイトルだと思ったが、それが反語であると気づく。孤独死が3万人近いこの国とどちらが「なれのはて」なのか。逆照射されるのは我々だ。しかし見ているだけで辛い人たちをよく7年も撮ったと思う。この国ではドキュメンタリーでしか今を描けないかと思うとちと悲しい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    さまざまな事情で日本を離れ、フィリピンの貧民街で暮らす困窮老人たちを追うドキュメンタリー。自転車店の軒下に居候して便所掃除をしながら暮らしたり、乗り合いジープの客の呼び込みで稼いだり、近所の女性にたらいで体を洗ってもらったり。その生活の具体的な細部が実に雄弁に物語る。少しずつ明らかになる4人の困窮老人の過去もそれぞれに強烈で現代の日本を映しているけれど、すべてを失った男たちが流れ着いたこの地でしぶとく生きているさまが何より心を揺さぶるのだ。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    かつて日本で家庭を築くも、今や遥かフィリピンの地に骨を埋める覚悟で過ごす4人の男性たちの記録。それぞれに一本の映画が作れそうな波乱の半生を刻む、独特の風貌に魅入られる。通訳も立てず出たとこ勝負の撮影手法によって、明日をも知れぬ彼らの暮らしの混沌ぶりに加え、刹那的な日常を襲う悲喜こもごもの劇的瞬間までもが、丸ごと捉えられる。ご近所さんの孤独死をよしとせず、その生き切る姿を見届けて偲ぶ、ずぶとくもフレンドリーな地元民のバイタリティに救われる。

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