ドーナツキングの映画専門家レビュー一覧

ドーナツキング

    「ブレードランナー」のリドリー・スコットが製作総指揮を務め、全米のドーナツ王と呼ばれたカンボジア人男性テッド・ノイの人生に迫ったドキュメンタリー。アメリカに渡り、ドーナツ店経営で資産2千万ドルを所有するまでになった彼の数奇な半生を描き出す。監督は、新人のアリス・グー。SXSW映画祭2020正式出品作品。
    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      アメリカン・ドリームは常に悪夢と表裏一体である。難民としてカンボジアから渡米し、アメリカを代表する食事の一つドーナツで夢を?んでしまうテッド・ノイの数奇な半生そのものは非常に興味深く、「ツイン・ピークス」など多くの映像作品に彼らの商品が登場していたことがさりげなく明かされる抜粋箇所も楽しい。しかし、後進へと至る流れを重視したかったのだとしても、製作陣はギャンブルや女性問題で破綻へと至った彼の暗部ともう少しきちんと向き合う必要があったのでは。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      ポップでカラフルな装いに反して、ドーナツから見えてくるのは、移民の国アメリカの近現代史や難民問題といったシリアスな事柄であり、描かれるのはドーナツ自体というよりもドーナツで繋がるカンボジア人のコミュニティだ。しかし同時に、純粋にドーナツが食べたくなる食べ物ドキュメンタリーの絶対条件もきっちり抑え、このシリアスな重さとポップな軽さが独特なバランスで成り立っている。このバランスこそがドーナツキングことテッド・ノイという人物の一番の魅力だろう。

    • 文筆業

      八幡橙

      中国系アメリカ人の新鋭、アリス・グーが映し出す、“ドーナツキング”の半生。成功の階段を一気に駆け抜ける彼の姿とカンボジアを襲った歴史の悲痛が、ポップなイラストや音楽を織り交ぜ、小気味よく、緩急たっぷりに綴られてゆく。70年代ゆえのアメリカンドリームに陶酔しつつ、中盤以降には『杜子春』的教訓も。魅惑と背徳を併せ持つドーナツという甘い毒が象徴する、ぎゅっと凝縮された社会の、人間の、悲喜こもごも。先を見据える次世代の飛躍に、回顧に終わらぬ光が見える。

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