愛のまなざしをの映画専門家レビュー一覧

愛のまなざしを

「UNLOVED」「接吻」などの鬼才・万田邦敏監督によるヒューマンドラマ。評判の良い精神科医・貴志のもとを患者として訪れた綾子。やがてふたりは恋に落ち、結婚を約束するが、貴志の亡き妻・薫への断ち切れない思いを知った綾子は嫉妬に狂い、その歯車は狂っていく。出演は「あぶない刑事」シリーズの仲村トオル、「雪女(2016)」の杉野希妃、「麻雀放浪記2020」の斎藤工。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    仲村トオルにとって杉野希妃は自殺した妻から解放してくれる救いなのか。それとも自分が救いたいと思ったのか。観念としては分かるが、具体が分からない。子供と会わないでと言う女、僕なら一発アウトだけど。次第に男も壊れていることが分かるが、そこにすべての理由を求める作劇はダメだと思う。嘘で男を支配する女は冒頭のモラハラ男に支配されるだろうか。こういう不用意な歪さを過剰かつ善意に解釈して評価する人がいるけど、それは映画や作り手にとって幸せなことだろうか。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    がらんとしたコンクリート打ちっぱなしの診察室に万田邦敏の世界を感じる。余計なものは何も映っていない。あるのは虚言と幻聴、そして愛憎の渦。平気で嘘をつき、独占欲を募らせ、嫉妬に燃え、目的のために手段を選ばない。そんなアンバランスな女性患者の情念が、孤独な精神科医の心をのみ込み、狂わせていく。愛の実体はなく、すべては妄想。そんな人間の感情だけを見せるという実験を冷たいコンクリートの箱の中でやってみせた万田の若々しさに感服。杉野希妃は最高のはまり役。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    万田邦敏監督の作品は、愛の定義を根本から揺るがす。育む経緯を敢えて端折り、愛のみの在りようを問う。医師と患者の俗に言う禁断の愛も、拍子抜けするほど簡単に成就させ、ドラマが本格的に動く。それなりに歴史を刻んだ医師と亡き妻の愛と天秤にかけられる勝算の薄い勝負に、捨て身で挑む患者のひとり相撲の切なさのようなものが、結末まで見届けた後、不意に時間差で押し寄せる。彼女を筆頭に、心を委ねづらい曲者揃いの、身の置き場に困る劇空間も、好みの分かれどころか。

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