POP!の映画専門家レビュー一覧

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地方局の番組でオフィシャル・サポーターを務めるリンは「世界平和」を謳って募金を呼びかけるものの実生活は上手くいかないことばかり。子供と大人の狭間で、社会の欺瞞と不寛容にもがきながら成長する少女の姿をポップな映像とシュールな解釈で紡ぐシニカルコメディ。大阪芸術大学映像学科を卒業後、ENBUゼミナール・映画監督コースで学んだ小村昌士の長編初監督作。主人公・リンを演じるのは、「アルプススタンドのはしの方」「テロルンとルンルン」で存在感を示した小野莉奈。第16回大阪アジアン映画祭正式出品、MOOSIC LAB [JOINT]2020-2021グランプリ&最優秀女優賞をW受賞。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    こんなヘンな映画、絶対に書けないし撮れない。個性的としか形容できない役者たち。よく探してきたと思う。ただ何でだろう、新しさをあまり感じない。数多ある、誠実に生きたいのに世界にも人間にも違和感ばかりでうまく生きられない的な映画群と同工異曲だからか。定番に対する答えの見つからなさこそ描きたいのかもしれないが。主人公は爆弾魔のツケ髭を付け、運転手のいない車で走り出すが、どこに向かい、何と闘うのか。70年前後の大島や若松とは本質的に違うラストが見たい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    会話がかみ合わないおかしみとか、物語を脱臼させる快感とか、そういうものがあるのはわかる。ただそれはかみ合っていたのがずれるとか、組み合っていたのが外れるからダイナミズムが生まれるのであって、最初からかみ合っていなければ、何も起きないんじゃないか? そんな根本的な疑問がわいた。別役実でも、コーエン兄弟でも、まず普通の人の凡庸な日常があって、そこに思わぬ裂け目が現れるから面白いのであって、最初からどこか怪しい奇人ばかり出てきたって、驚きはない。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    頭でっかちの女の子が、黒柳徹子女史もびっくりのハートヘアーで、TVのど真ん中に鎮座する面白み。外見もシニカルな生真面目娘の心身を、天衣無縫な爆弾魔がかき乱す。釈然としないことはそのままに、話せば長くなる経緯も割愛し、とにかく先へ。そんな“大人”の事情を汲み二十歳を迎えた彼女が、スタジオを飛び出し、重たげなハート頭で軽やかに進む表情には、青くさい憂鬱から解放された晴れやかさに、何か失ったような陰りも覗く。ひねくれた成長譚の妙味が後引く怪作。

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