親愛なる君への映画専門家レビュー一覧

親愛なる君へ

ヴェネチア国際映画祭で評価された「一年之初」や「ヤンヤン」などで、人と人のつながりやアイデンティティを描いてきたチェン・ヨウジエ監督の台湾アカデミー賞3部門受賞作。ある老婦とその孫、間借り人ジェンイーの血の繋がりを越えた家族の絆を描く。ただの間借り人のはずだったジエンイーが、病気を患う老婦シウユーと幼い孫の面倒を見るのは、今は亡き同性パートナーの家族だから。ジェンイーはこの暮らしが自分の人生において愛する人が生き続ける唯一の方法だと感じていた。だがある日、シウユーが急死したことにより、その死因をめぐってジエンイーは不審の目を向けられるようになる。警察の捜査によって不利な証拠が次々に見つかり、ジェンイーはついに罪を認めてしまう。だが、それはすべて、愛する“家族”を守りたい一心からだった。主演は「一年之初」でも、ヨウジエ監督とタッグを組んだモー・ズーイー。第57回台湾アカデミー賞(金馬奨)や、第22回台北映画奨、で最優秀主演男優賞を受賞。また、老婦の名演が光った“国民のおばあちゃん”の別名を持つチェン・シューファンは、第57回台湾アカデミー賞で最優秀助演女優賞を獲得した。緻密で繊細なストーリーラインで愛の極限を描き、ミステリアスで重厚なサスペンスの展開を匂わせながら、真実が徐々に解き明かされるにつれて、温かな情感があふれ出す。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    人生はビデオゲームのように一つのミッションをクリアすれば次のミッションがやってくるというものではなく、同時多発的に次々と問題が起こって、それぞれの問題が複雑に絡み合い、その一つに対処すればさらにそこから派生して問題が起こるものだ。一人の青年の冤罪の物語のように始まり、やがてそれが贖罪の物語であると明らかになっていく本作には、そういう意味において極めてリアルな人生が描かれている。台湾北部の港町(基隆市)の風景の捉え方も見事。

  • ライター

    石村加奈

    観終わって、さらに観返したくなる、奥行きのある構成だ。チェン・ヨウジエ監督の練り上げた脚本力が冴えわたっている。ラストシーンの、ヨウユー少年(バイ・ルンイン)の澄んだ歌声を聴き、主人公ジエンイー(モー・ズーイー)との別れの場面での、印象的なカメラワークを想起した(それは二人が山へ向かう、電車の中から始まっていたのかもしれない)。二人のデリケートな関係性を、独特のカメラワークが柔らかく捉えている。ヨウユーの祖母を演じたチェン・シューファンが圧巻!

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    謎の間借り人ジエンイーが、家主の老婆殺しの容疑で逮捕される。さらにその数年前、老婆の息子の死にも彼が関わっていることがわかってくる。現在、過去、さらにその過去、2つの死をめぐるミステリー。3つの時期を重ねて描く構成は「暗殺の森」を彷彿とさせ、愛憎交錯するドラマが展開する。ジエンイーと“養子”のヨウユー、死んだ親子、それぞれの複雑な状況、関係性は、その構造で描くことで、シンプルにあぶり出される。それは多様性を生きる「現代」のリアリティ。

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