草の響きの映画専門家レビュー一覧

草の響き

「海炭市叙景」「きみの鳥はうたえる」から続き、函館の映画館シネマアイリスが製作を手がける佐藤泰志原作映画化第5弾。心に失調をきたし妻と函館に戻った和雄は、医師の勧めで毎日街を走ることに。やがて路上で出会った若者たちと交流を持ち始めるが……。監督は「空の瞳とカタツムリ」の斎藤久志。走ることで徐々に再生する和雄を「寝ても覚めても」の東出昌大が、夫を理解しようと努める妻・純子を「みをつくし料理帖」の奈緒が演じる。函館シネマアイリス25 周年記念作品。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    斎藤さんの持ち味のヒリヒリ感が意外な程希薄なので理由を考える。結婚して子供ができた監督と脚本家夫婦が、子供が生まれるのに自殺未遂する自己中夫とラストにようやく家を出る妻を描く。原作にない夫婦話。これはパラレルな自分たちなのか。だから切実さが見えないのか。その分見易いから、今後の監督人生にはプラスなのかな。斎藤夫婦が何をやりたかったのか考えているうちに映画が終わってしまった。別れの肯定? ならば少年切って、夫婦をもっと描くべきでは。この奥が見たい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    心を病んで故郷に戻った夫、慣れない土地で夫を理解しようと努める妻。闇へと降りてゆく夫、支えるのに疲れてしまった妻。斎藤久志は、佐藤泰志の原作には出てこない主人公の妻を登場させ、こわれゆく夫婦の情景を繊細に描き出した。周囲の世界になじめない孤独な2人がいとおしいのは、はみ出し者の人生への穏やかな肯定感が画面に満ちているからだ。斎藤は佐藤の世界を自身の世界と重ねあわせて、鮮やかに具現した。東出に存在感がある。売れっ子の奈緒もこの作品が一番よい。

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