息子のままで、女子になるの映画専門家レビュー一覧

息子のままで、女子になる

    トランスジェンダーの新世代アイコン、サリー楓に密着したドキュメンタリー。男性として生まれた楓は、就職を前に女性として生きてゆくことを決断。メディアに注目されていく楓だったが、息子として父親の期待を受け止めきれなかった葛藤が根強く残っていた。監督は「選挙フェス!」の杉岡太樹。
    • 映画評論家

      北川れい子

      今国会でLBGT法案の成立が見送られ、また振り出しに戻った偏見と差別に寛容なニッポン。ところで私は、トランスジェンダーの新世代アイコンだというサリー楓のことを全く知らずにこのドキュを観て、学歴も容姿も頭脳にも恵まれたサリーの、かなり巧みに作られた身分証明映画ではと思ってしまった。むろんチャレンジに失敗するエピソードも隠さずに映すし、女子になっても息子は息子という父親にも取材しているが、このドキュを名刺代わりにするサリーが目に浮かぶようでゴメン。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      サリー楓がトランスジェンダーのミス世界大会に出場するまでを追うドキュメンタリーとして映画は始まるが、すでにこの時点で彼女のことばにはあやうさがただよっている。大会の結果が出て以降は、彼女の日常や人々との対話をとおして、そのあやうさの依って来るところを掘り下げていく展開となるが、ここに至って今度は作り手の手法の問題、端的に言えば他者性に対する無遠慮が前面化する。タイトルは父親のことばに由来するが、はたして作り手は誰に寄り添おうとしているのか。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      トランスジェンダー。クイーンコンテスト、大事だろうか。その人として生きるだけでなく、社会にアピールする活動が必要という考え方もどうか。本作の企画は、サリー楓のそうした活動への加担となるものだ。終盤、経験と思考力と魅力的な容姿をそなえたはるな愛が登場。楓に対して「闘いすぎてるよ」と戒める。作品自体がそれを受けとめきれていない気がした。杉岡監督、画のセンスも、答の出ていることに足を取られない賢明さもあるが、いわば商業的ビューティーへの批評を欠く。

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