たゆたえども沈まずの映画専門家レビュー一覧

たゆたえども沈まず

テレビ岩手が10年にわたり取材し、伝え続けてきた東日本大震災を記録したドキュメンタリー。行方不明の夫に手紙を書き続けた妻、あの日同級生たちと高台に逃げた中学生など、地方局の強みを活かし継続的に取材、被災地とそこに暮らす人々の10年の軌跡を映し出す。監督は「山懐(やまふところ)に抱かれて」の遠藤隆。ナレーションを「里山っ子たち」の湯浅真由美が担当する。
  • フリーライター

    須永貴子

    地域に根づいたローカルテレビ局だから撮影できた、10年分の膨大な映像資料をもとに、震災の記録と記憶、そしてメッセージを後世に伝える貴重な作品。だが、奇跡の一本松、三陸鉄道の復興の軌跡、被災者を支えた旅館の女将、被災した人々の10年後など、複数の素材が散らかったままなのが残念。監督の視点やナレーション、ヴィジュアルデザインなど、なんらかのフックでこれらの素材を束ねて初めて「映画」として成立するのだと思う。津波が陸地を飲み込む映像は鑑賞注意。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    ドキュメンタリー映画にはどれほどの労苦が費されるのだろう。忍耐強く対象を見つめ、追い、膨大な汗と共に地道に時を重ねていく。十年という時の積み重ねが、〈生きる〉ということの荘厳な重みを我々の心に刻み込む。本当の意味の感動である。劇映画では決してできない貴重な営み。生々しい津波の映像もさることながら、津波を生き抜いたそれぞれの人たちの言葉の重み、悲嘆に暮れながらも懸命に探り当てようとする一縷の望み。そしてその人たちの十年後……。嗚呼、ここに人間がいる。

  • 映画評論家

    吉田広明

    東日本大震災時の津波の映像、俯瞰で見る時の緩慢さと、海面間際で見る恐るべき速度の落差には現場の臨場感があり恐怖を覚える。震災直後にインタビューした人々とその十年後を比較するのが映画のメインとなるが、被害を受け止め、受け入れ(そこには断念も含まれる)、新たに踏み出す、そのためには物理的時間には還元しえない心理的時間がかかることをインタビュイーは示し、「復興」という抽象的な言葉の内側にある複雑な様相を露わにしてくれる。事実の持つ力を感じさせる映画。

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