そして、バトンは渡されたの映画専門家レビュー一覧

そして、バトンは渡された

2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの小説を、「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督が映画化した人間ドラマ。優子は血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も苗字が変わった。一方、シングルマザーの梨花は夫を何度も変え奔放に生き……。主人公の優子を「仮面病棟」の永野芽郁が、優子が今一緒に暮らす義理の父・森宮さんを「哀愁しんでれら」の田中圭が、魔性の女性・梨花を「決算!忠臣蔵」の石原さとみが演じる。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    うまく作られた映画だと思う。それ故に気持ち悪さも際立つ。子供産めないから欲しくて子持ちと結婚して、子供と離れたくないから実父から奪って、病気だから子供の前から姿を消す。人のためという名の自分のため。そのエゴを批判せず、娘が立派に育ったから結果オーライって。結婚出産家族という価値観にも何かあるようで何もない。これが137分もかけて語る2021年の物語なのか。世界競争力ゼロ。より泣かせるための脚色演出。自分にこんな仕事が来たらどうしよう。来ないけど。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    2つの家族の物語が並行して語られ、やがてそれがつながる。だけどどうもしっくりとかみ合わない。アクロバティックな作劇の支点であり、2つの物語を結びつける要となる石原さとみ演じる母親のキャラクターにリアリティーがないからだ。現実味のなさの理由は実は物語上ちゃんとあって、それが最後に明らかになるのだが、そのあまりに紋切り型の決着にも?然とする。語り方というより、やはりキャラクターの造型の問題で、そこが小説と違って具体的な事物で語る映画の難しさ。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    映画化にあたり、ミステリー的な仕掛けも施されてはいるが、後の答え合わせも楽しめるよう情報量豊かに撮られているため、ある程度読める展開ではある。そんな構成上の微妙な塩梅も踏まえ、複雑な背景を繊細に忍ばせる俳優陣の巧演に、想像が膨らみ見方が広がるのも、映画ならではの醍醐味。性善説ばりの好人物ばかり登場するが、胸が塞がる事件も後を絶たぬご時世ゆえ、ひとつひとつの出逢いを大切に、心から信頼できる相手にバトンを渡すことの意義を、つくづく痛感させられる。

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