シンプルな情熱の映画専門家レビュー一覧

シンプルな情熱

数々の文学賞に輝く作家アニー・エルノーが自身の愛の体験を赤裸々に綴ったベストセラー小説を映画化。大学の教師エレーヌは年下で既婚者のロシア外交官アレクサンドルと出会い、恋に落ちる。自宅やホテルで逢瀬を重ね、彼との抱擁にのめり込んでいくが……。出演は、「若い女」のレティシア・ドッシュ、元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルで、俳優としても「オリエント急行殺人事件」などに出演するセルゲイ・ポルーニン。2020年カンヌ国際映画祭公式選出作品。2020年サン・セバスティアン国際映画祭コンペティション部門出品。
  • 映画評論家

    小野寺系

    仕事にも家庭の円満にも将来にも目を背け、ただ肉体だけを欲する相手の求めに応じて情事を繰り返す。それは一見、古いタイプの“待つ女”にも見えるが、女性ばかりが貞節や家庭のケアを求められてきた社会においては、一種の反動的行為にもなるのではないか。そして、レティシア・ドッシュが見事な実在感で演じる人物が固執していたのは、男ではなく、そういう生き方に身を投じる自分自身であるようにも感じられる。女性の社会的なあり様が、アンビヴァレントに活写された興味深い一作。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    この際、性的な欲望のみで成立する関係をアリとする。欲望の「虜」になってしまったのだから。男は既婚者で家庭を壊すつもりはない。シングルマザーの女はそれを承知で男からの一方的な連絡をひたすら待つのみ。ただし、女が盲目的に男に服従、あるいは従属しているのでなく、女の自発的な選択による関係がこの映画の重要な視点である。一見、身勝手な男を演じるバレエ・ダンサー、S・ポルーニンの容姿と鍛えた身のこなしが、女の欲望、つまり映画の視点を厭味のないものにしている。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    シングルマザーの主人公の愛欲と苦悩の日々をつぶさに紡ぐだけのタイトル通りシンプルな作りで、物語はほとんど動かないのだが、ひたすらにヒロインの気持ちに寄り添った不均質なカメラワークとざらついた画(フィルム撮影に見えるがエビデンスは見つからず)、少々乱暴でしつこい歌モノ音楽の差し込み、光が回り切った明るい部屋での生々しいセックス描写など、あまり味わったことのない演出バランスによって自他の境界が曖昧になる感覚が表現されている極めて純度の高い性愛映画。

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