名も無い日の映画専門家レビュー一覧

名も無い日

映画監督・写真家の日比遊一の実体験を基にした人間ドラマ。次男・章人の訃報が入り、カメラマンとして海外で長年暮らす長男・達也は故郷・名古屋に戻る。三男・隆史ともども現実を受け止めきれず、達也はカメラを手に、過去の記憶を探るように名古屋を巡る。写真家としても活躍する永瀬正敏が長男・達也を、自ら破滅へ向かっていく生活を選んだ次男・章人を「エルネスト もう一人のゲバラ」のオダギリジョーが、兄たちを支えてきた三男・隆史をロックバンドRIZEのメンバーで俳優の金子ノブアキが演じる。劇映画に熱田神宮が登場するのは本作が初。2021年5月28日より愛知県・三重県・岐阜県にて先行ロードショー。
  • フリーライター

    須永貴子

    寡黙な主人公が行動するにつれて、そこにいない人物の名前が観客に知らされる。彼らと主人公との関係は?そもそも主人公が故郷に帰ってきた目的は? いくつもの疑問で観客の興味を持続させ、次第に人物相関図が出来上がり、帰郷の理由である「弟の死」が、相関図に暗い影を落とす。その手際が非常に鮮やか。地理的には狭い範囲内の物語だが、主人公がさすらうロードムービーのようなムードに永瀬正敏がよく似合う。地元のまつりをクライマックスに重ねたのは強引。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    何もかも重厚だ。重苦しいというのではない。何か居住まいを正しくして見なければいけないというような空気感が漂っている。監督の実体験をもとに作られたそうだが、それだけに一見なんでもないような場面が心に深く沁みてくる。個人的な話だが、監督と出身地が同じで、自分の家族に起きたことでこれに何か重なる部分もあり、とても他人事とは思えなかった。私的感情を交えてはいけないのに、どうしてもそれを禁じえない。それにしてもこの映画に集まった俳優たちの顔ぶれたるや!

  • 映画評論家

    吉田広明

    アメリカから帰郷した写真家、彼が出会う人々からの断片的な情報から、彼が何らかの「事件」ゆえに帰郷したらしいことが分かってくるのだが、出てくる人が多くて全体が見えてくるのに時間がかかる。その事件は弟の死、それについて主人公は自責の念を抱いており、その自責からの解放がメインとなる割に、その死の意味が判然としないため解放にも根拠が見えない。実話が元らしいが、弟の孤絶の原因が最後まで不明ならば、それを前提に作劇すべきで、雰囲気での解放感演出は自己満足では。

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