少年の君の映画専門家レビュー一覧

少年の君

壮絶ないじめ、苛烈な受験戦争、母子家庭や子どもの貧困など過酷な社会問題を描き、香港のアカデミー賞と言われる香港電影金像奨で作品賞・監督賞・主演女優賞を含む8冠を獲得、第93回アカデミー賞国際長篇映画賞にノミネートされた中国・香港合作の青春映画。中国では、ほとんど宣伝がないまま公開されたにもかかわらず、口コミで250億円の興行収入となる大ヒットを記録、青春映画ジャンルで歴代1位を樹立した。監督は「インファナル・アフェア」シリーズで知られる俳優・監督・プロデュサーのエリック・ツァンの息子デレク・ツァン。2001年に俳優デビューし、2010年にジミー・ワンと共同監督した「恋人のディスクール」(大阪アジアン映画祭2011グランプリ)で監督業に進出した。中国で「13億人の妹」の愛称で親しまれる人気女優チョウ・ドンユイと、国民的アイドルにして本作で演技の実力を見せつけたイー・ヤンチェンシーを主演に起用し、内向的な優等生とストリートに生きる不良少年の極限の孤独と純真な愛をヒリヒリと描きあげている。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    透明性が高く、全篇に美しい光と湿度を湛えた美しい青春映画ではあるが、香港の社会問題を正面から捉えている。「いじめ問題」を法を整備して取り組んでいるところも興味深い。昨今のコロナの対策に於いてもそれぞれの国の対応が試された。日本は「いじめ問題」で何か政治が動いているのだろうか。隣国のこのような作品態度に接すると政治が全く機能していない我が国について忸怩たる想いが募る。素材としての役者、撮影、編集、そして脚本どれも素晴らしく、エンタメ性も高い。

  • フリーライター

    藤木TDC

    「泥だらけの純情」(古すぎ?)のようなチンピラと優等生の純愛にいじめ、受験戦争など現代性を絡めた絶望メロドラマの前半から中間点以降、東野圭吾風ミステリに転換。東野作品との類似を批判する声もあるけれど、ティーンズ・ロマンスの外形はプロットも映像も独自の要素が強く、別次元の映画に統御され成功している。私は少年少女劇が趣味じゃないので感情移入できず、子供にあまりにも複雑な情動を負わせる脚本に無茶を感じたが、純粋に良作と感じる観客も多いだろう。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    一時期の日本のミステリー小説の映像化を彷彿とさせる、悲運に見舞われた少年少女が秘密を共有する運命共同体となる物語。日本の学園ものだとチャラけてしまう場合が多いが、本作はアジア圏の制服の衣裳が持つ、血が冷たいような端正さが残っている。チンピラと優等生の少女という登場人物はステレオタイプではあるが、取調室のシーンで二人の結びつきの強さや絶対的信頼を表す演出が、表情のみの表現で気迫がこもる。エンドクレジットの馬鹿馬鹿しい説明さえなければ。

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