アララト 誰でもない恋人たちの風景vol.3の映画専門家レビュー一覧
アララト 誰でもない恋人たちの風景vol.3
越川道夫監督が「あざみさんのこと 誰でもない恋人たちの風景vol.2」に続き、男女の性愛を描くシリーズの第3弾。数年前に倒れ左半身が不自由になり、絵を描かなくなったスギちゃん。深夜のファミレスで働く妻のサキは、彼にまた絵を描いてほしいと思っていた。主演は「私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください」の行平あい佳。
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フリーライター
須永貴子
お互いに愛し合っているのに、夫婦は離婚を選択する。その後の展開やファミレスの深夜の一人客への言及から、孤独化が進む東京という町では、なんらかの形でご縁で結ばれた人たちは、お互いにサポートして生きていってもいいのではないか? という大きなメッセージを受け取りかけたその時に、離婚した男女の長尺の性愛シーンが映し出されて困惑した。東京の片隅で交わされるこの情愛は、ラブストーリーとして惹きつけるものがなく、ただのミクロな物語で終わっている。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
ノアの箱舟が流れ着いたところはアララト山。タイトルはそのアララト山と関係があるんだろうか。サキちゃんは、半身麻痺のスギちゃんではない男に抱かれる時、スギちゃんを忘れようとしているのか、スギちゃんを思い起こそうとしているのか。そんなことを思わせた。越川さんのラブシーンにはいつも唸らせられる。行為そのもより、行為をする人の心を思わせるのだ。サキちゃんの行平あい佳もスギちゃんの荻田忠利も見もの。こういう密やかな、だが力の籠った映画がうんと増えてほしい。
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映画評論家
吉田広明
半身不随になった夫と、彼を介護する妻。二人の日常を淡々と描く中で、二人をつないでいたもの(画家である夫は、草や石しか描かず、夫の絵でそれらの美しさを知った妻は、彼が自分のヌードを描いてくれることで自分に自信を持つ)、妻に依存する生活に次第に夫の心が壊れかけている様が分かってくる。ゆっくりと壊れる二人の関係は、彼らを結び付けていたものをまた別な形で蘇らせることで、またゆっくりと再生してゆく。その緩慢さと親密さが、自然の治癒能力を思わせて説得的。
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