グンダーマン 優しき裏切り者の歌の映画専門家レビュー一覧

グンダーマン 優しき裏切り者の歌

東ドイツのボブ・ディランと呼ばれ、スパイでもあった実在のシンガー・ソングライター、ゲアハルト・グンダ―マンの生涯を描く音楽ドラマ。昼間は褐炭採掘場で働き、夜はステージで歌うグンダーマン、だが、その裏の顔は秘密警察(シュタージ)の協力者であった。主演は「ソニア ナチスの女スパイ」のアレクサンダー・シェーア。監督は東ドイツ出身の俊英アンドレアス・ドレーゼン。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    これが実話というから驚きだ。私たち日本人にとってシュタージ(秘密警察)の存在の実感は薄い。しかし、分断されていたドイツ国内ではこの映画は突き刺さるのだろう。疑念の目を持って隣人に接するというより、想像もしない人物がシュタージであったり、スパイであったという衝撃。矛盾を抱え生き続け、自身の音楽でそれを昇華したひとりの男の物語ではあるが、それが国民の共通経験と重なるとき、この作品は強く訴えてくる。それは個人の生の軌跡と集団の生の軌跡が重なるときだ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    ミュージシャンの評伝映画ではきわめてユニーク。ドイツ統一前、東独の秘密警察シュタージによる市民監視活動に手を染めた主人公の悔恨を縦軸に、80年代東独の若者の日常を独創的なタッチで点描。シュタージの活動実態は「善き人のためのソナタ」を見ると分かりやすいが、600万人が密かな行動監視で思想評価され、その膨大な記録の倉庫も重要場面で登場。ドラッグで躓く西側のロックスターと違い、政治と日常が結合した問題だけに、表現者の苦悩が見る者に肉薄する。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    真面目で繊細な作りの映画ではある。時間軸が無説明に飛ぶ編集も、関連のあるテーマでつながっていくのですぐ慣れる。しかし時制を混乱させたことで、欠落した部分がより際立ってしまった。東ドイツの秘密警察に協力しながら、逆に裏切られてしまう出来事が重要なテーマとなっているにもかかわらず、その具体的な瞬間はこぼれている。周縁をなぞって際立たせようとした肝心の芯が見つからないなら、手管を使うより時間軸通りのほうが素直では。主人公の魅力が乏しいので引きが弱い。

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