エッシャー通りの赤いポストの映画専門家レビュー一覧

エッシャー通りの赤いポスト

「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」の園子温がワークショップで選出した役者たちで撮影した群像劇。映画監督・小林は新作映画「仮面」の出演者を募集する。俳優志望の夫を亡くした未亡人や殺気立った訳ありの女など、様々な経歴の持ち主が応募してくる。第49回モントリオール・シネヌーヴォー映画祭観客賞受賞。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    ワークショップの制作環境を利用して、「現実から浮遊したスモールワールドで若い女優が暴れ回り、反体制的なイメージと戯れる」という自身のシグネチャーに園子温が回帰した作品ということになるのだろう。日本のサブカル村(演者も含む)がこぞって誉めそやしていた10年以上前から、園作品における客観性の徹底的な欠如は何も変わっておらず、自分は一貫してそこに批判的だ。それにしても、ここまでの作家的増長の責任は、本人よりもそれを看過してきた業界にあるのではないか。

  • 映画評論家

    北川れい子

    あっ、自転車に「俺」と書いた白い幟! 園監督の原点「自転車吐息」の、あの俺だ。ただこの作品ではただの通行人扱いで、それがちと残念。ともあれ多くのエキストラを使って(でも全員顔が見える)映画作りをここまで遊ぶとは、さすが園監督ならではと嬉しくなる。しかもエキストラに光を当てているのも小気味いい。グループの追っかけまでいるカリスマ監督のキャラクターがいまいち弱いのが物足りないが、映画の持つ俗性とある種の神聖さを滲ませた本作は応援したくなる。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    園子温監督作の出演者がさらけだすんじゃー、うおりゃー! とやりだすときの賑やかさと活気は大変好きなのだが、それが必ずしも何かをさらけ出しているのではなく逆に覆ってしまうこと、監督自身がそのスタイルの影に隠れることに、特に近年は困惑させられながら観ていたが、本作の全員主役コンセプトは、うおりゃー! 多発を空疎化させない意味と、他のすべての映画までも見方を変えてやろうかぐらいのアイディアが感じられて面白かった。いい顔の遍在という映画的幸福。

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