ひらいての映画専門家レビュー一覧

ひらいて

芥川賞作家・綿矢りさが、高校生の思いつめた恋心を描き、人間の根源的な愛を問うた同名小説を、「ジオラマボーイ・パノラマガール」「樹海村」の山田杏奈主演で映画化。脚本・監督は「なっちゃんはまだ新宿」「21世紀の女の子」で注目される若手監督、首藤凛。山田杏奈が演じるのは、優等生でビジュアルもなかなかの人気者の木村愛。彼女の“たとえ”への熱い恋心は、彼の秘密の恋人である美雪にまで向けられ、一筋縄ではいかない三角関係が展開していく。“たとえ”役は、本作で映画初出演を果たしたHiHi Jets/ジャニーズJr.の作間龍斗。クラスに馴染めず謎めいているが、人の気持ちを素直に受け取る少年を演じる。美雪役には「ソワレ」の演技が高い評価を受けた芋生悠。それぞれの心がそれぞれに揺れ動き、切なさがスパークする新感覚・乱反射恋物語。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    原作は綿矢りさの文芸作品だが、キャスティングからも、大半のシーンが校内であることからも、ジャンル的にはティーンムービーと言っていいだろう。そういう意味では、近年自分がいろんな場所で苦言を呈してきた「ティーンムービーの作り手が中年男性ばかり問題」を根底から引っくり返してくれるような快作だ。同性でも共感できる人は限られそうな女子高生の歪な心の動きを、歪なまま淀みなく映画的に表現できている。そのストーリーテラーとしての基礎体力の高さに舌を巻いた。

  • 映画評論家

    北川れい子

    「私をくいとめて」「勝手にふるえてろ」など、映画化された綿矢りさ原作の女子たちは、ほとんど独り相撲でころんだり、躓いたりしていて、観ていてイライラすることが多いのだが、本作の、恋しい相手に受け入れてもらうために、どんな遠回りも辞さない女生徒には、結構、肩入れしたくなった。校舎の外壁を忍者顔負けで飛び越えたり。相手の秘密の恋人に近付いての大胆な行動も独り相撲のリアクションとしてスリリング。首藤監督がそんな女生徒に偏見を持たずに描いているのもいい。

  • 映画文筆系フリーライター

    千浦僚

    原作未読。高校生活終盤というくぐり抜け方の難しい時期を器用に切り抜けられそうなヒロインがその小器用さゆえに自らに切実な実感がないと思い、あるカップルの男女双方に対して誘惑者になるとは面白い物語。「テオレマ」の謎の青年の動機もひょっとしたらそれか。アイドルダンスの本番直前放棄は、独走トップの長距離走をゴール直前でやめるのに匹敵する。かつて諸作品で生き惑いの当事者だった山本浩司、河井青葉、板谷由夏、萩原聖人が教師役や親役であるのに世代交代感。

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