とんびの映画専門家レビュー一覧

とんび

重松清のベストセラー小説を、「護られなかった者たちへ」の瀬々敬久監督と阿部寛のコンビで映画化した人間ドラマ。親の愛を知らずに育ったヤスは愛妻と息子アキラに囲まれ幸せに暮らしていたが、妻が事故死。周囲の温かい手を借りながらアキラを育てていく。不器用なヤスを阿部寛が、ヤスの息子アキラを「東京リベンジャーズ」の北村匠海が演じ、昭和の瀬戸内海の町を舞台に、親子の絆を紡ぐ。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    過去10年でテレビドラマとして2回映像化された原作を今改めてわざわざ映画化するのであれば、この物語の根幹を成している地域共同体称揚、鉄拳制裁容認をはじめとする昭和的価値観を対象化した視座もほしいところだが、まるで「ALWAYS 三丁目の夕日」を思わせるほどまっしぐらにノスタルジー全開、センチメンタル全開な作品世界の中、阿部寛の暑苦しい絶叫演技が繰り広げられるばかり。どんなベタさも厭わない、瀬々敬久監督の実直な作家性が裏目に出たのではないか。

  • 映画評論家

    北川れい子

    重松清の原作は未読で、内野聖陽主演のドラマ版も観ていないのに、この映画版、観る前からすでに既視感が強く、これには我ながら戸惑った。きっとどこかで昭和の父親の典型のような主人公の情報を見たか聞いたかしたのだろうが、こちらのそんな妄想的な既視感通りに映画が展開、更にいえば周辺の人たちの昭和的なお節介や人情もいつか見た光景。いや、そういう懐かしい話だからこそ映画化されたのだろうが、親の心、子知らず、という成長した息子の終盤のエピソードはちと痛い。

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    いまだにピンク映画館で新旧のピンク映画を観るが、そこではまず登場人物たちが偉ぶってないということがあり(痴態満載ではかっこつかない)その人間観に自分は魅かれる。監督瀬々敬久氏がピンク出身というのもいまさらの話だが、近年の氏が手掛けるメジャー作品、特にいい話系統のものの、一見誇るものなく偉くなくとことん庶民でしかない者の埋もれた輝きを、行政だの天皇制だのを超えるものとして一本の映画の時間をかけて見せていく仕事は変わらずブレていないことだと。

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