グッドバイ(2020)の映画専門家レビュー一覧

グッドバイ(2020)

ある家族の姿を通して、家族のゆらぎを切り取った人間ドラマ。郊外の住宅地に母と二人で暮らしているさくらは、友人の頼みから一時的に保育園で働くことに。そこで園児の保護者・新藤と出会い、やがて彼に幼いころから離れて暮らす父の姿を重ねるようになる。出演は、「蒲田前奏曲」の福田麻由子、「映画 深夜食堂」シリーズの小林麻子、「イニシエーション・ラブ」の池上幸平、『仮面ライダーゼロワン』の井桁弘恵、「シン・ゴジラ」の吉家章人。監督は、本作が初長編監督作となる新鋭・宮崎彩。第15回大阪アジアン映画祭上映作品。
  • フリーライター

    須永貴子

    なんでもうまくこなせるため、何事にも夢中になれない主人公の人物像と、実家でのぬるい日常描写にリアリティがある。彼女が無認可保育園で働くシーンでの、自然にふるまう子どもたちの中で役者を動かす演出スタイルは、恩師だという是枝裕和監督イズムを感じる。子どもと触れ合うことで自身の記憶をさかのぼる流れはわかるが、禁忌の匂いを漂わせて終わるラストカットでは、突然主人公が別人のような表情を見せる。主人公の心情と思考回路の飛躍が、どうにも咀嚼できない。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    いじわるなことを言うと、“無認可保育園”なのに、遊具なども充実したちゃんとした保育園にしか見えない。そんなところで保育士の資格も持っていないさくらが働けるんだろうか。ピアノだってちゃんと弾けて、一端の保母さんだ。リアリティは映画の必要条件。そこに疑問を持ってしまうと後がつらい。さくらは誰かに依存していないと生きていけないかのようだ。一緒に住む母、そして保育園の園児のお父さん、そして離れて暮らす父。そこには性的な匂いもする。惜しい作品だった。

  • 映画評論家

    吉田広明

    大人になりきれないヒロインが、保育所に臨時に働きに入って、幼年時代自分が大切にされていたことに気づき、離婚して今は一緒にいない父に似た園児の父にほのかに恋をするといった経験を通して一回り成長する。煙草の匂いとか、カレーの肉といった感覚に関する細部を積み重ねることでヒロインの感情を動かしてゆく手つきも危なげなく、ヒロインと同世代と思しき監督の、等身大のビルドゥングスロマンとしてよく出来ている。次回はもう少し難しい題材を選んで、冒険することを期待。

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