きこえなかったあの日の映画専門家レビュー一覧

きこえなかったあの日

「友達やめた。」の今村彩子が、東日本大震災以降、熊本地震やコロナ禍などの困難に直面した耳の聞こえない人たちの姿を10年に渡って記録したドキュメンタリー。手話言語条例の制定や知事会見の手話通訳など、各地で生まれた新しい動きをカメラに収めた。宮城や鳥取、熊本、広島など、全国各地の耳のきこえない人たちが出演している。
  • フリーライター

    須永貴子

    今村監督の「友達やめた。」では、玄関に立つ被写体の表情が印象的だった。本作でも、監督を出迎える瞬間の、ろうあ者たちの表情から、監督やこの作品が、彼らにとって大切な存在になっていることが伝わってくる。被写体と友好な関係を築けることは大きな才能だが、優しさなのか遠慮なのか、作品としては淡白な印象を受けた。せっかく監督にしか撮れない映像、テーマ、メッセージなのだから、なるべくディレクターズノートで補完せずに、映像だけで語り尽くして欲しい。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    この今村監督の「友達やめた。」は記憶に新しい。アスペルガー症候群の女友達との交遊の様がとても心に迫った映画だった。その今村さんが今度は災害下の聴覚障碍者たちの生き様を追った。東日本大震災の宮城、熊本地震の熊本、大水害の広島、コロナ禍の豊橋……。聴覚障碍者は一般の人たちに比して災害で死亡する率もかなり高い。津波警報が聞こえなかったりするのだ。よく撮っているなと思うが、テーマが分散していて、何に思いをはせて見ればいいのかわからなくなってしまった。

  • 映画評論家

    吉田広明

    災害の真っただ中での難聴者の姿を伝えることは不可能であるのは無論、ただ、健常者の恐怖以上であろうその恐怖を感得させる難聴者ならではの表現を期待したのだが。被災した難聴者の何人かの姿を追い、確かに彼らの人としての魅力は伝わるが、その一人が言うように、監督が撮影に精一杯で、彼らとのつながりが築けているのか心もとない。また震災以外の災害地での被災者の姿、震災を契機に広がる手話言語条例なども伝えるが、総花的なまとめ方で、作り手の視点や立場が見えてこない。

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