漁港の肉子ちゃんの映画専門家レビュー一覧

漁港の肉子ちゃん

    西加奈子の同名ベストセラー小説を原作に、明石家さんまが企画・プロデュースする劇場アニメ。食いしん坊で能天気な肉子ちゃんと、しっかり者の娘・キクコは、訳あって漁港の船で暮らしている。そんな母娘の秘密が明らかになるとき、2人に最高の奇跡が訪れる。声の出演は「後妻業の女」の大竹しのぶ、『鬼滅の刃』の花江夏樹。監督は「海獣の子供」の渡辺歩。アニメーション制作を「映画 えんとつ町のプペル」のSTUDIO4℃が担当する。
    • 映画評論家

      北川れい子

      男に食いものにされ、何度ボロボロになってもすぐに立ち直る大食漢の肉子と、ほっそりした娘のキクコ。似ても似つかぬこの母娘の人情アニメで、実の親より育ての親というお約束ごと通りに進行、そういう意味では泣きたい人向きのアニメである。けれども「海獣の子供」で水族館の世界を無限に広げた渡辺監督にしては通俗的泣かせドラマに足を引っぱられている印象で、それ以上の広がりがないのがもの足りない。大竹しのぶが声でも達者なのは当然だが、Cocomiの吹き替えも合格点。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      STUDIO4℃の造形力は、「えんとつ町のプペル」のような丸のままのファンタジーよりも、「海獣の子供」やこの作品のように現実世界のなかの異世界を描いたときに本領を発揮する。西加奈子の小説に描かれた肉子ちゃんの生々しいダメさ加減は、実写だとドぎつく映ってしまうきらいがあるが、人物造形と描線の描き分けによって、アニメでしか表現不可能な「リアル」を紡ぎ出している。物語は他愛ないといえば他愛ないが、だからこそディテイルの豊かさに目をみはった。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      こんなおばさんいたら楽しいなと男性の半分は思いそうな肉子ちゃん。信じられなかったが、声は大竹しのぶ。できすぎの小学生の娘キクリン、リアリティー無視の親友マリア、大事なときにヘン顔の二宮くん、おいしく肉を焼くサッサンなどの人物も残りそうだ。ジブリへのオマージュがあり、吉田拓郎の〈イメージの詩〉もよみがえった。渡辺監督は、明石家さんまの、微妙に抑制ありの趣味に従いつつ、最後のまんじゅうまで低姿勢を保ち、山田洋次に負けない程度の「故郷」は提出したと言える。

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