きまじめ楽隊のぼんやり戦争の映画専門家レビュー一覧

きまじめ楽隊のぼんやり戦争

「山守クリップ工場の辺り」でロッテルダム国際映画祭グランプリに輝いた池田暁初の劇場公開作。全く知らない隣町を相手に毎日、規則正しい戦争を続ける町を舞台に、一人の兵隊と周囲の人々の暮らしが変化していく様を、オフビートな笑いを交えて綴る。出演は「とんかつDJアゲ太郎」の前原滉、『テセウスの船』の今野浩喜、「大コメ騒動」の石橋蓮司。
  • 映画評論家

    北川れい子

    シュールでクール、しかもとんでもなく皮肉が利いた不条理コメディの秀作である。判で押したような日常を繰り返すだけの、何も考えないこの町の住人たち。隣り町相手の、いつ始まったか誰も覚えていない戦争は、既に習慣、伝統行事化し、誰も不審に思わない。俳優陣を台詞を喋るロボットのように動かす演出と、横移動の多いカメラも効果的。ニンゲンも戦争もきまじめ、かつぼんやりとミニチュア化したことで、逆に世界が俯瞰可能となり、そう、人間はこんな世界に生きているのね。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    根岸吉太郎が「カウリスマキに観せたい」とコメントしているが、オフビートな喜劇性の背後に世界の不条理に対する辛辣な視線がのぞくあたり、カウリスマキはもちろん、岡本喜八をも思わせる。虚構に虚構を重ねるか、現実に現実を重ねていくやり方が主流を占める現在の日本映画界にあって、池田暁のこの虚構と現実に対するソフィスティケートされた距離感はじつに貴重だ。片桐はいり、きたろう、竹中直人ら下手に使えば台無しのベテラン個性派勢も存分に魅力を引き出されている。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    笑えなかった。川を挟む二つの町がたがいの実態を知ることなく戦争をつづけているのも、人々がとくに何を生産することもなく曖昧な権力と制度に対して従順に暮らしているのも、一昔も二昔も前の、古典的な悪夢だ。オフビートでも泥くさい滑稽味を狙ったタッチでそれを包み、役者たちは人間の愚かさのさまざまのタイプを窮屈な芸で見せる。この「きまじめ」は現在にたどりついていない。池田ワールド。そういうテイストの徹底ぶりは認めたいが、頻出する食べ物の扱い方が気色わるい。

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