TOVE トーベの映画専門家レビュー一覧

TOVE トーベ

フィンランドの「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの半生を創作の秘密と情熱を軸に描く物語。1914年、芸術家の両親のもと生まれたトーベは幼い頃から絵を描く芸術家だった。やがて戦火の防空壕で子供たちに聞かせた物語を機に「ムーミン」の世界が広がっていく。1945年、彼女はスウェーデン語の小説『小さなトロールと大きな洪水』を出版。その後、ムーミン・シリーズはイギリスの新聞に漫画連載が決まり、絵本や舞台など、世界中で親しまれるようになる。本作は2020年10月にフィンランドで公開されるや大絶賛で迎えられ、スウェーデン語で書かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を達成し、本国では7週連続で興行収入1位を記録。第93回アカデミー賞国際長編映画賞フィンランド代表に選出された。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    終盤登場するファンにはおなじみのトゥーリッキではなく、彼女と出会う前のヴィヴィカとの関係を中心的に描くことで、既存のドキュメンタリー作品との差別化に成功している。個人的には戦争とムーミンの関わりやトーベの不安や孤独をもう少し掘り下げて欲しかった気もするが、徹底したリサーチを踏まえつつも、イメージが壊れない程度に時流に寄せて自由で奔放な女性トーベが恋愛を謳歌する姿を際立たせようとする優れたバランス感覚が、作品のポップさに繋がっていることも確か。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    旧来の価値観やセクシャリティも含めた様々な境界が新たに書き換えられていく現代にあって、ハイ(カルチャー)とロー(カルチャー)の対立を描く作品が目立ち始めているようで、ひとまず本作もその一つだろう。同性愛を隠すことがなかったトーベ・ヤンソンはしかし、このハイとローの境界には囚われ続けているのが面白い。ローがハイに対するカウンターではなく、ローはローとしてありながらハイとローの垣根を越える自由を描こうとする本作には現代的な課題が詰まっている。

  • 文筆業

    八幡橙

    偉大なる父の掲げる芸術の壁を前に怯み、挫け、苛立ち、男性との、そして女性との道ならぬ恋に溺れ、酒を浴び、紫煙の中で夜通し踊り狂う若き日のトーベ・ヤンソン。『ムーミン』を描き始めた頃から、ヴィヴィカとの禁断の愛に破れるまでの日々は、成功も収めつつ終始どこか物悲しく、「冬」の木枯らしの画が印象的に後を引く。頽廃の匂いと童話の世界、そのギャップは興味深いが、欲を言えば最後に登場する、長年のパートナーとなるトゥーリッキと島で語らう「夏」の日も見たかった。

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