浜の朝日の嘘つきどもとの映画専門家レビュー一覧

浜の朝日の嘘つきどもと

タナダユキ監督が、福島県南相馬に実在する映画館「朝日座」を舞台に、映画に人生を救われた女性が、映画を教えてくれた恩師との約束を果たすために、支配人や町の人々を巻き込みながら映画館を守ろうと奮闘する姿を描く。福島中央テレビ開局50周年記念作品。主人公の浜野あさひ/茂木莉子(もぎりこ)を演じるのは高畑充希、恩師の田中茉莉子役にバラエティで活躍する大久保佳代子、朝日座の支配人・森田保造に落語家の柳家喬太郎と異色の顔合わせが実現。丁々発止の会話が小気味よく展開する。茂木莉子と森田の掛け合いに、「キッズ・リターン」(96年/北野武監督)を彷彿とさせる「バカヤロー!まだ始まっちゃいねーよ」というセリフが出てきたり、教師の田中が失恋するたびに、「喜劇 女の泣きどころ」(75年/瀬川昌治監督)を見ていたり、映画好きにはたまらない仕掛けが随所にちりばめられている。大震災・福島の原発事故から10年、映画館を取り巻く状況はコロナ禍でさらに厳しさを増すなか、エンターテイメント文化へのエールが込められた作品が誕生した。なお、本作は福島中央テレビ50周年記念ドラマ『浜の朝日の嘘つきどもと』の前日譚ともなっており、ドラマに出演していた竹原ピストル、六平直政、吉行和子なども出演している。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    福島と名画座(ミニシアター?)。なんというタイムリーな企画。しかし、主人公と恩師の回想に比べて、映画館の話が弱過ぎる。街の人々のステレオタイプな変わり身。批評だとしてもあんまりでは。福島の人で3・11以後を「大震災から」と言う人を見たことがない。みんな、「原発事故から」だ。何か忖度でもあったのか。震災、コロナと現実を取り込むなら、マスクをさせないといけないのでは。ハンパな現実とのコミットはかえって見苦しいと自戒を込めて。地方の単館の現状認識も甘い。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    不器用な人物がじたばた生きること、家族や血縁なんて幻想に過ぎないこと、孤独な魂が相寄ること。タナダユキの映画の底流にある人生観がそのまま提示され、主観がそのまま語られる。映画への愛もそうだろう。南相馬の映画館・朝日座という強力な磁場が、作り手の素の部分を引き出したのか。だからこれは純然たるファンタジーなのだ。ご当地映画に東日本大震災から10年たった被災地の現実も希望も見えないことに、この国の無策を思い知り愕然としたのは私だけだろうか。

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