羊飼いと風船の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
小野寺系
あらすじを読んで、中国の人口抑制政策を批判する作品なのかと思いきや、逆にチベットの保守性や因習を背景に、“子どもを産む役割”に縛られる女性が家庭の中で自主性を奪われ続ける地獄を映し出す恐ろしい一作だった。それを理解すると、劇中の“魂の生まれ変わり”を予感させる抒情的シーンが呪いそのもののように感じられる。演出面での新しさは希薄だが、思想的にはかなり進歩的。いまの日本映画界に、ここまで国内問題をクリティカルに描き出せる作家が存在するだろうか。
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映画評論家
きさらぎ尚
時代が変われば価値観や習慣も変わる。ここに描かれるチベットの祖父、夫婦と息子たちの三世代家族も然り。映画は一人っ子政策や輪廻転生といったこの地の伝統に根ざした家族、人間、信仰、暮らしといった、いくつかの題材が同時並行的に展開するが、避妊具を風船にかこつけたタイトルの二重性が物語るように、ユーモアと思慮が削がれることはない。政治的な方向にぶれない点を評価したい。それでいて登場人物個々人の視点が風船に集約されていく様を表現する監督の力量が秀逸。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
コンドームを風船にして遊ぶ悪ガキが父親にド叱られるトップシーンで手早くテーマを提示し、産児制限政策が行われているチベットの大草原に、性欲強めの夫婦、出家した女、子づくりを強要される羊たち、などのキャラクターを周到に置いたうえで、輪廻転生という信仰の葛藤を浮き上がらせるためさりげなく試験管ベイビーの話題を潜り込ませるなど、牧歌的な画作りとは対照的に意外なほど緻密な計算が施されている作劇なだけに、風船の如くふんわりしたラストには多少の物足りなさも。
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