天国にちがいないの映画専門家レビュー一覧

天国にちがいない

2019年のカンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞をダブル受賞した、名匠エリア・スレイマン監督作。新作映画の企画を売り込むため、故郷ナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る映画監督。だが、どこにいても何かがいつも彼に故郷を思い起こさせる。エリア・スレイマンが自ら監督役で、「ノー・エスケープ 自由への国境」のガエル・ガルシア・ベルナルが本人役で出演。
  • 映画評論家

    小野寺系

    監督自身が演じる主人公の彷徨がパリ、ニューヨークに及び、ジャック・タチ風のシュールなコントで結ばれることで、それぞれの地に居場所がないことの不安を感じさせる。主人公の撮る作品に民族的な切迫感が希薄だという評価を与えられる場面が痛烈で、ある出自に対して限定的なものを求めてしまいがちな、われわれ観客の盲点を突いてくる。とはいえ、それは現在の世界が思想的な後退を見せているからこその要請だともいえ、スレイマン監督の孤独が癒されることは当分ないのだろう。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    普通の日常のようなシュールなような。ユーモラスなようなシニックなような。シリアスなようなコミカルなような。スレイマンの新作はなんとも不思議なテイストをたたえている。自身が主演して、ナザレ、パリ、ニューヨークと移動するなか、セリフの少なさと状況説明のなさで、想像力を動員して読み解く楽しさはあるものの、誰もが面白がる類の作品とも思えない。でも、今、この世界に天国なんてそうそうあるものではないという、この監督特有のメッセージの伝え方をしかと受け止めた。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    監督が主演を兼任し台詞が与えられていないノホホンとした中年男が主人公、とくればジャック・タチの「ぼくの伯父さん」シリーズが想起されるも、描かれているのはパレスチナ問題に対するアイロニーっぽいナニか、って感じで、学のない自分がこの映画の本質を理解できたとは言い難いのだが、シンメトリーと集合体を基調とした画づくりとユーモラスに動く人物たちの様子は、位相の離れた並行世界を眺めているようで滅法楽しかったし、そこには間違いなく映画を観る幸せが溢れていた。

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