由宇子の天秤の映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
惜しい。スマホでもドキュメンタリーが撮れる今、主人公がテレビに踏み止まり何を目指しているのか分からない。局に言われるままマスコミ批判は引っ込めるし。小さな学習塾を経営する父も同じ。理念が分からないから、女生徒に手を出す枷がない。タイトルの天秤、何と何を秤にかけるのか。父の罪を言うか言わないか? 正しさって、その程度?テーマに手が届かない。半径1メートル映画の多い中、志は見事。どうして演出力はあるのに脚本力は弱い映画ばかりなのか。惜し過ぎる。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
情報化社会の過剰な懲罰意識を描く映画が多いが、この作品はそこから一歩踏み込む。一方で叩かれる側に手を差し伸べつつ、一方で自身が叩かれる側へと追い詰められるテレビディレクターの内面のきしみを描くのだ。隠蔽された真実に迫るという職業倫理をもつ者が、身内の過ちを隠蔽する。そんな矛盾した行動を、説明抜きに具体的な画面で見せていく。春本雄二郎監督のカメラは対象にダイレクトに迫り、人物の葛藤を露わにする。ラストの6分を超すワンシーン・ワンショットは圧巻。
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