由宇子の天秤の映画専門家レビュー一覧

由宇子の天秤

「火口のふたり」の瀧内公美主演、「かぞくへ」の春本雄二郎監督によるヒューマンドラマ。女子高生自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子。事件の真相に迫るなか、学習塾を経営する父・政志から衝撃的な事実を聞かされ、由宇子は究極の選択を迫られる。共演は「佐々木、イン、マイマイン」の河合優実、「かぞくへ」の梅田誠弘。第71回ベルリン国際映画祭パノラマ部門選出。第21回東京フィルメックス 学生審査員賞受賞作。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    惜しい。スマホでもドキュメンタリーが撮れる今、主人公がテレビに踏み止まり何を目指しているのか分からない。局に言われるままマスコミ批判は引っ込めるし。小さな学習塾を経営する父も同じ。理念が分からないから、女生徒に手を出す枷がない。タイトルの天秤、何と何を秤にかけるのか。父の罪を言うか言わないか? 正しさって、その程度?テーマに手が届かない。半径1メートル映画の多い中、志は見事。どうして演出力はあるのに脚本力は弱い映画ばかりなのか。惜し過ぎる。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    情報化社会の過剰な懲罰意識を描く映画が多いが、この作品はそこから一歩踏み込む。一方で叩かれる側に手を差し伸べつつ、一方で自身が叩かれる側へと追い詰められるテレビディレクターの内面のきしみを描くのだ。隠蔽された真実に迫るという職業倫理をもつ者が、身内の過ちを隠蔽する。そんな矛盾した行動を、説明抜きに具体的な画面で見せていく。春本雄二郎監督のカメラは対象にダイレクトに迫り、人物の葛藤を露わにする。ラストの6分を超すワンシーン・ワンショットは圧巻。

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