この世界に残されての映画専門家レビュー一覧

この世界に残されて

2020年米アカデミー賞国際長編映画賞ショートリスト選出のハンガリー映画。1948年、ハンガリー。ホロコーストを生き延びた16歳のクララと42歳の医師アルドは寄り添うことで人生を取り戻していくが、ソ連の弾圧によって再び時代に翻弄されていく。出演は、映画初主演となるアビゲール・セーケ、本作でハンガリーアカデミー賞およびハンガリー映画批評家賞最優秀男優賞を受賞したカーロイ・ハイデュク。監督は、主に短編映画を手掛けてきたバルナバーシュ・トート。製作は、「心と体と」のモーニカ・メーチとエルヌー・メシュテルハーズィ。
  • 映画評論家

    小野寺系

    ホロコーストを生き残り、家族をなくした人々のその後に焦点をあてる試み。少女の口から語られるおそろしい記憶と、彼女の生き方の無軌道ぶりや、愛情を過度に求める姿から、残虐な行為は加害者のみでなく被害者の人間性をも破壊することをしっかりと伝えている。その一方で、中年男性と少女の間における恋愛や性愛とも微妙に絡んだ複雑な感情をメインに据える必要があったのかという点については疑問。少なくともそれは美しく描かれ得るような感情ではないように思える。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    「私たちの方が去った人より不幸よ。私は取り残された」。ナチス・ドイツから解放されたものの、今度はソ連の支配が始まったわけだから、ヒロインの心情は、生きるも地獄だったであろう。とはいえ、序盤の、もう一人の主人公である医師との出会いから性急に進展するヒロインの行動原理にはごく軽い戸惑いも。が、それも束の間。以降の叙情と抑制の調和がとれたストーリー、俳優の感情表現の巧さが戸惑いを払拭。様々な不幸が世界を覆う今の世から見ると、二人の寄り添う優しさが美しい。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    多くを語らない映画なので時代背景などは事前に頭に入れてから観るのをお勧めするが、ホロコーストで妻を失くした中年男と両親を失った思春期の少女との関係に終始漂う危なっかしい空気が映画に緊張感を与えており、さほどうねりのない展開の中でひたすらに人物に寄り添った演出は温かく、抑制をきかせつつ心の機微を逃していない主演二人の芝居がじんわりと胸に染みてくる佳品で、戦争で感情を奪われた人々がそれを取り戻す過程にはこんなドラマが幾多となくあったのだろうと思う。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事