私をくいとめての映画専門家レビュー一覧

私をくいとめて

「勝手にふるえてろ」の綿矢りさ(原作)&大九明子(監督)コンビが再タッグ。30歳を越え、“おひとりさま”が板についた黒田みつ子。脳内にいるもう一人の自分“A”と平和な生活を満喫していた彼女はある日、年下の営業マン、多田くんに恋してしまう。出演は「星屑の町」ののん、「劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~」の林遣都。
  • フリーライター

    須永貴子

    安藤サクラの「百円の恋」、蒼井優の「百万円と苦虫女」、松岡茉優の「勝手にふるえてろ」に類する、出ずっぱりの主人公とともに演じる女優が覚醒する本作は、のんにとってようやく誕生した代表作。脳内の相談役“A”とのマシンガントーク、Aの意思に操られるときの動き、抑え込んでいた怒りの感情を吐き出す爆発力など、技術と感性が高い次元で融合している彼女の一挙手一投足に、文字通り目が釘付けになる。ただ、彼女の魅力をもってしても、133分は長いと感じた。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    脳内相談役という設定は面白いが、それが足枷にもなっている。みつ子という女子が相談役を必要としているような大きな葛藤を抱えているようでもないし、おひとりさまではありながら、決して孤独ではなく、そこそこ充実したシングルライフを営んでいる。だから、相談役が無用な雑音にしか聞こえない。あの絶妙な「勝手にふるえてろ」と同じ原作・監督コンビながら、あまり気が行かないのはなぜか? キャストだって、のんをはじめ万全なのに、語り口を間違えているとしか思えない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    自分の声(男声)との会話で、三十路ながらそれなりに快適な一人生活を維持する女。その脳内の声がモノローグでなくダイアローグであるという点が本作の興味深い点だ。自分を悪い方向に走らせたり、突然消えたり、結構迷惑な存在なのだが、それも今のままで良いわけはないという自分の無意識の発露なのだ。声は自分であり、自分の中の他者である。しかし、そうしたギミックなしでも、かつての親友との微妙な関係をきっちり描ける演出があるからこの声も生きているわけだ。

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