靴ひもの映画専門家レビュー一覧
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
市井の人々の社会問題を正面から真摯に描いたケン・ローチ的な視線。どうにもならない人間の運命を映画的なロマンスやミラクル描写を極力避け、現実的な容赦ない展開をさせた。一見無神論的で運命論的な世界観ではある。嘆願する信仰の対象としての神の存在はなく、結果的に神の存在を匂わせ、人間の尊厳を描いてみせた。現在どこの先進国でも見られる核家族化や孤独の光景は、誰も語りたがらない題材である。しかしこの映画の存在理由は、まさにそこにあるのかもしれない。
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フリーライター
藤木TDC
障がい者が不慮の事情で新生活に臨み、疎んでいた共棲相手と打ちとけ互いに成長してゆく物語の人権啓発や情操教育面の意義はもちろん解るが、新作映画にはステレオタイプの刷新という課題も求められる。その面で本作の主人公は適度に下品な大人の感性をもつキャラに造形され新鮮で共感しやすく、イスラエル映画的な黒い笑いの配合も好ましいセンスだ。とはいえ中盤以降、優しい人々に囲まれ感動の結末に突き進む一本調子は定型から脱却しておらず、俳優の演技が良いだけに歯がゆい。
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映画評論家
真魚八重子
実話を基にした中に異様な展開をみせる作品がある。それは事実だからしょうがないという確固たる柱があるから受容できるが、本作は恐らく創作の部分がありきたりで甘いので、主となる物語の論理性のなさがただの破綻や落ち着きの悪さに見える。障害者の日常描写のリアリズムと、彼らの私生活の充実にまつわる夢想が交じり合いつつ、現実と理想が互いを殺し合ってノイズにしてしまう作劇や演出が気になる。ロマンスの始まりがとって付けたようでもうひとつ考慮がほしい。
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