過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道の映画専門家レビュー一覧

過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

デビューから50年余、81歳にして今なお最先端で活躍を続け、世界で最も人気のある日本人写真家、森山大道に密着したドキュメンタリー。幻となっていたデビュー写真集の復刊プロジェクトを通じて、これまで謎に包まれてきたその素顔が明らかになる。写真家としてだけでなく、造本家や編集者とやりとりする森山の姿も垣間見ることができる。
  • フリーライター

    須永貴子

    ジャック・ケルアックの『路上』Tシャツを着た80歳のカメラマンが、東京のあちこちでスナップを撮りまくる。その姿と彼の写真に重ねるように何度もインサートされるのは、彼の代表作でありポートレートとされている、野良犬のモノクロ写真。70年代のスランプを脱してから「考えるのを止めた」森山の本能的な写真術の本質に、ジャズやラテンなど様々なジャンルの血湧き肉躍る楽曲が最高にフィットしている。自宅でのオンライン試聴中に、いつの間にか踊りだしていた。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    森山大道さんは『On the Road』と描かれたTシャツを着て、カメラをぶら下げ街を歩く。そしていい被写体に出会うと、挨拶するみたいにカメラに収める。ジャック・ケルアックの小説『On the Road』=『路上』はヒッピー世代のバイブルで、映画にもなった。写真はブレていたりピンボケだったりするが、「写りゃいいんだ」と森山さんは気にもしない。ニエプスという発明家が撮った最古の写真が森山さんの魂に深く根を下ろしている。「光と影、それだけで十分だ」。

  • 映画評論家

    吉田広明

    ボケ、ブレで粒子を際立たせたり、ネガフレーム自体を表現に持ち込んだり、フィルムの物質性を露呈させる作風から、「光と影」という写真の根本に帰還し、被写体(街)との出会い=撮る行為そのものを写真とみなすあり方へ。この変化にはフィルムからデジタルへという媒体の転換が関わっているだろう。とするならば、本作でもう一つの軸となる写真集製作の、紙の物質性への拘泥はもはや森山にとって反動でしかないとも見える。その矛盾をどう考えるべきかもう少し突き詰めて欲しい。

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