おらおらでひとりいぐもの映画専門家レビュー一覧

おらおらでひとりいぐも

第158回芥川賞・第54回文藝賞を受賞した若竹千佐子の同名小説を、「モリのいる場所」の沖田修一監督が映画化したユーモア溢れる人間ドラマ。突然夫に先立たれひとり退屈な日々を過ごす75歳の桃子の前に、桃子の心の声を具現化した “寂しさ”たちが現れる。ひとり暮らしの桃子を「いつか読書する日」以来の映画主演となる田中裕子が、若い頃の桃子を「長いお別れ」の蒼井優が、桃子の心の声である“寂しさ”たちを濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎が演じる。また桃子のイマジネーションを美術家・日本画家の四宮義俊がアニメーションで、「関ヶ原」など数々の作品のVFXスーパーバイザーを務めるオダイッセイがVFXで描く。
  • フリーライター

    須永貴子

    「痴呆症が入ってきたのかも?」と周りから心配される75歳の主人公に見えている世界のなんという豊かなこと! 独居老人である彼女の寂しさや「どうせ」という虚無感を男性の俳優たちで擬人化し、先立った夫との恋の始まりを病院の待合室のテレビに朝ドラのように映し出すなど、茶の間に転がっている気安い玩具で、極上のマジックを披露する。若さや愛よりも、熟成と知恵、そして精神の自由に価値を見出す沖田監督の集大成にして最高傑作が、そのメッセージを証明する。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    長めの映画だったが、退屈はしない。それは立派ではあるが、そのためなのか、若い人にも見てもらおうとしたためか、様々に工夫を凝らしている。が、それが細工に見えて仕方ない。細工ばかりが目立って、それに気を散らされて作品の本当の中身が伝わってこない。桃子の分身だろう寂しさトリオだが、それが却って桃子の内面を推し量るのを邪魔している。人類誕生に至るCGアニメ、ステージと化す詫び住まい、坂道を登る桃子聖者の行進等、それなりに楽しくはあるんだが……。

  • 映画評論家

    吉田広明

    ごく平凡な主婦の老後、寂しさが擬人化して現れ、彼女の想念に茶々を入れる。神様が子供姿で現れたり、夫との馴れ初めが病院のTVに映し出されたり、夫への思いが歌謡ショーで歌われたり、現実と幻想が地続きで行き来する。老人の頭の中はこんな具合なのだ、ということだろうが、幻想によって現実が異化されるわけでも、現実と幻想の区別がつかない境地に至るわけでもなく、観客はごく安全な場所にいて、その行き来を楽しんでいればよい。映画にとってはその安全さが何とも退屈だ。

1 - 3件表示/全3件