スパイの妻 劇場版の映画専門家レビュー一覧

スパイの妻 劇場版

黒沢清が蒼井優主演で撮り上げたヒューマンサスペンス。1940年。満州で偶然、ある国家機密を知ってしまった優作は、正義のため事の顛末を世に知らしめようとする。一方、妻・聡子は反逆者と疑われる夫を信じ、ただ愛する優作と共に生きることを心に誓うが……。共演は「ロマンスドール」に続き蒼井と夫婦を演じる高橋一生、「犬鳴村」の坂東龍汰、「凪待ち」の恒松祐里。
  • フリーライター

    須永貴子

    一九四〇年に生きる人物を、映画好きというキャラ設定を生かしてか、蒼井優は当時の映画女優の芝居へのアプローチを用いて演じる。現代の言語感覚では不自然な言い回しの台詞を、やや高音で小気味よい早口で放ち続けることで、あの時代の人物としてスクリーンに存在する。とりわけ「おみごとー!」と叫んで失神する芝居は、構図とも相まって間違いなくこの映画のピークとなった。蒼井の新たな代表作は、ミステリーとしても反戦映画としても格調高い娯楽作に仕上がっている。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    「クロサワ」と聞いて、「明」ではなく「清」のことだと思った学生がいるのに驚いたのは十数年ほど前のこと。今ではそれが当たり前になりつつある。あの独特の黒沢ワールドも捨てがたいが、「黒沢色」を排しているようなここ最近の作品もいい。オーソドックスという言葉がよく似合う。これが脱黒沢ワールドの到達点などと言ったら、ご本人に叱られるかもしれない。最後まで一つも違和感もなく観られた。俳優陣がとてもいい。これも黒沢さんの演出あってのことだと思う。

  • 映画評論家

    吉田広明

    「スパイ」である夫は自分を裏表のない人間と言うが、掛け値なしにその通りで、それは妻も同様だ。夫婦共に真っ正直な人間=透明な存在であるからこそ生じるサスペンスという逆転。これまで不透明な存在を核に劇を紡いできた黒沢監督としては全く新しいアプローチで、これは脚本に新世代を起用したことによるものか。これは画面においても言え、リアルの不透明な翳りの薄い、作り物の匂いのする絵面になっている。作り物であることを引き受けた上で映画に何が可能か、その実験。

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