プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵の映画専門家レビュー一覧

プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵

南アフリカの白人でありながら、アパルトヘイトに抵抗して投獄されたティム-ジェンキンの自伝『脱獄』を映画化したポリティカルスリラー。1978年。最高警備を誇るプレトリア刑務所に投獄されたティムは、仲間のスティーブン・リーと共に脱走を決意する。出演は「スイス・アーミー・マン」のダニエル・ラドクリフ、『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』のダニエル・ウェバー。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    英国の黒人映画作家が、かつての植民地であり連邦加盟国である南アフリカを舞台に、70年代の反アパルトヘイト白人活動家の脱獄劇を描くという、複雑な構造を持った作品。もっとも、監督自身がブレッソン「抵抗」と紐づけていることからもわかるように、良くも悪くもストイックな作りで、本篇の大半は獄中の日常描写に費やされている。『プリズン・ブレイク』を露骨に意識した邦題は、商業上の理由ということは理解できるものの、作品の持つ真摯さを毀損している。

  • ライター

    石村加奈

    木片を集めて作った鍵で、鉄製の扉を次々と突破し、仲間とともに見事刑務所を脱出した、実在の政治犯ティム・ジェンキンの脱獄劇。ティムに扮するダニエル・ラドクリフの激変ぶりに驚かされた。“良心の囚人”役イアン・ハートがチャーミングだ。「怒りは抑えろ。外の世界を思い出してしまう」と重い科白をさりげなく吐く。刑務所を脱出する者、留まる者、それぞれが迎える朝が清々しい。刑務所が舞台とあって、鉄格子を想起させるライティングの中で、脱獄犯たちの光る目も印象的。

  • 映像ディレクター/映画監督

    佐々木誠

    70年代の南アフリカ、反アパルトヘイト活動に参加した白人たちを収容している刑務所が舞台の実話。恵まれた暮らしを捨て、闘い、捕まった彼らの脱獄計画、その行動自体が彼らの抵抗運動であり意思表示だ。それは、今のBLM運動、そして香港で闘う若者たちの姿と重なる。D・ラドクリフが良い。自らのイメージを逆手に取った近年の役選びが抜群だが、今作では淡々と計画を進める実在の人物を演じ、その内に秘めた熱い思い、滲み出る生き様を体現している。

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