追い風の映画専門家レビュー一覧

追い風

ラッパー・DEGの実話に基づく話を映画化。MOOSIC LAB 2019最優秀男優賞、ミュージシャン賞を受賞した作品に追加シーンを加えた完全版として上映。なかなか評価されずにいる28歳のミュージシャン・出倉は、友達の結婚式の知らせを受ける。監督は、「1人のダンス」の安楽涼。
  • フリーライター

    須永貴子

    映画とは監督のものであるのに、主人公を演じたDEGの素材力に頼りすぎている。この大きな負荷は、彼にはやや酷。自分の殻を破って涙を流すシーンや、新曲をフルでパフォーマンスする披露宴のシーンは、劇中で友人の映画監督(本作の監督が演じている)が言う「今しか撮れないもの」がたしかに映っていた。その生々しさを素材とした上で、もう少し調理したものを見たかった。現状は、長篇映画の一部分を切り取った、プロトタイプやラフスケッチで終わっている。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    西葛西の駅前の楠の木には椋鳥の大群が巣喰っている。最近、西葛西を訪れる機会がちょくちょくあって、夕闇の中、椋鳥が一斉に飛び立つ光景は何か不吉なものを感じさせる。インド人が日本一多く住むとタクシーの運ちゃんから聞いた。が、西葛西のラッパー・DEGはそれとは何の関係もなさそうだ。DEGと彼らの仲間たち。どこにでもいる若者たち。彼らの中では通じる熱情やスピリットが我々には少しも伝わって来ない。お好きにどうぞ、という気にさせられてしまう。

  • 映画評論家

    吉田広明

    自信のなさ、自分の空虚さが露わになるのが怖くて、人に迎合して愛想笑いすることが習い性になっているラッパーが、自分の弱さをさらけ出す覚悟を決め一歩前進する。空気を読むことに長けた現代的若者の寓話。スタジオで練習中自分の情けなさに言葉が詰まり、泣き出し、しかし無口なギタリストがふと奏でだした音に、みっともなくても歌い始める場面が本作の白眉。ラストの舞台、曲をその人に向けて歌う相手が来なかったのをどう受け止めるのか、そのサスペンスは解消してほしかった。

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